仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「そうなんだよ。実は最近、テレビ収録の後とか結構記者に声かけられるんだ。だから、いっそ夕子とふたりでいるところを撮ってもらおうかと思って」

動画のコメントが浮かぶ。仮面夫婦だと思っていたり、どうせすぐに別れると思っている視聴者に、私と史彰が仲のいい夫婦だと見せつけてやりたい。

「いいわ。じゃあ、一日デートしましょ」
「ありがとう。夕子、頼りになる!」
「その代わり、明日のけんちん汁を美味しそうに食べてるところはショート動画でチャンネルにあげちゃうわよ。いいわね」

史彰はうんうんと頷いて、無邪気にサラダを口に運んでいた。
私たちはやっぱりウィンウィンの関係になれる。これからもずっと。



週末、約束通り私と史彰はデートをした。
芸能人のオフといった雰囲気で、サングラスをかけ、彼はニット帽もかぶる。いつ撮られてもいいように、家を出るときから腕を組んでスタート。
輸入家具の店でインテリアを見て、イタリア食材の店で買い出し、そこのカフェテラスでランチ。大通りを腕を組んで歩きもした。

私と史彰を注視する人もいたけれど、誰もが『見たことがある気がする』『サングラスかけてるし芸能人の誰か?』程度の視線だ。
考えてみれば、私の動画の熱心な視聴者でなければ、私の顔などわからないだろう。
史彰のことも、よほどファンでなければ気づかないはず。時代が時代じゃなければ、私も彼もここまでメディア露出する商売ではないのだ。

しかし、こんなふうに歩いているだけで本当に週刊誌に撮られるのだろうか。
でも、史彰はテレビ局を出たときに声をかけられたという。彼の周囲には記者がうろついているのだろう。
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