仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
その晩、帰宅してきた史彰を私は仁王立ちで迎えた。靴を脱いでそろそろとリビングに入ってくる史彰は、背を丸め気まずそうだ。

「……あの写真、この前の収録の後に撮られたみたいで」
「後藤花梨(ごとうかりん)アナ二十六歳。ヨアケテレビ入社四年目、主な出演番組は朝の情報番組とハイ&ローのMC。趣味はスポーツ観戦、好みのタイプは優しくてアウトドア派な人」

私がつらつらとプロフィールをあげると、史彰は頭を下げる。

「写真を撮られたのは軽率だった。だけど、信じてくれ。少し離れたところに、スタッフや他の出演者がいたんだ。ふたりきりでいたように切り取られているだけで……」
「彼女といい仲だろうがそうじゃなかろうが、関係ないのよ。私と史彰は恋愛で結婚したんじゃないんだから」

私が厳しく言い切ると史彰はうっと詰まった。
大事なのは彼の誠意ではない。私たちのイメージの問題なのだ。

「家庭的で落ち着いた夫婦を演出したくて、結婚を選んだのに、新婚早々週刊誌に不倫を取り沙汰されるんじゃ困る!」
私の怒りに史彰が片手を額にあて、うつむいた。
「あ~、ぐうの音も出ない正論。その通り、夕子は間違ってないし、俺が全部悪い~!」

史彰は本当に心の底からへこんでいる様子なのだけれど、もう週刊誌は明日の発売が決定している。今からSNSで仲のいいところをあげても、焼石に水。いや、むしろ余計に仮面夫婦説が流れてしまうかもしれない。ああもう、どうしよう。

「夕子、ここはひとつふたりで動画でもあげてみる?」
「若い子みたいに、仲良し夫婦動画で再生数を稼げっていうの? それとも先手を打って週刊誌の訂正でもやるの?」
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