仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「不本意だわ。見た目が綺麗でおしゃれな料理ばかり求められるなんて」
「初期の頃から夕子はそういう雰囲気で売ってるから。視聴者が求めるのもそれなんだよね」

料理研究家を志し、大学時代から人気料理研究家の此村町子先生に師事してスタッフとして頑張ってきた。
卒業後、正アシスタントのひとりとして雇ってもらえ、その頃から流行りにのって動画サイトやSNSで料理動画をアップしてきた。ご年配の此村先生は新しい取り組みだと応援してくれたし、いくつかレシピがバズるようになってくると、私個人も注目されるようになってきた。此村先生の弟子というネームバリューだけでなく、私の容姿や作る料理のおしゃれさからだった。

もちろん、おしゃれな料理はウケ狙いだった。動画を見る世代に響くように、家でも一流のシェフが作ったような料理ができるんだよとアピールし、可愛いより綺麗で勝負してきた。
私自身の容姿にも気を遣った。清潔感は忘れずに、メイクはクールに女性らしく、服装はシャツにパンツやタイトスカートにカフェエプロンを合わせる。格好よくて綺麗なワーキングパーソンを目指してブランディングした。
バリキャリ風の小綺麗な女子が、さらっとおしゃれな料理を作る。私の動画は若い世代を中心にウケ、個別に仕事の依頼もくるようになった。

先生や先輩たちの勧めもあって独立したのが二年前。
それからは週一、二本動画をあげ、雑誌や電子媒体に連載を持ち、生活の糧としてきた。今日のような雑誌の特集もあるし、著書だってある。

二十八歳の料理研究家としてはまずまず成功しているのではないだろうか。
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