仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
史彰はそんな私の様子に気づいて、気を遣ってくれている。
動画の再生数やリプライの管理は若菜に頼み、私をSNSや動画投稿サイトから遠ざけようとする。そのため、休日はスマホをあまり見ないようにと外へ連れ出してくれることが増えた。

今日はふたりで隣県の公園にやってきた。

「晴れて日差しが暑いくらいだね」
「まだまだ冬で、風は冷たいよ。史彰、薄着すぎない?」

私はダウンコートだけど、史彰は薄手の皮ジャケットだ。

「暑がりなんだよ。このくらいでちょうどいい」
「風邪ひかないでよ」

公園は広く、サイクリングコースや子どもの遊具スペースもある。散策できる小径も多く、私たちはわずかにある冬の花を見て、野鳥の声を頼りに木々の間に視線をさまよわせた。たっぷり歩いて、ベンチで休憩を取る。史彰が缶コーヒーを買ってきてくれた。

「はい、夕子。ブラックでよかった?」
「うん」

受け取るときに手が触れた。思わずびくんと指先を引っ込めそうになり、自意識過剰な自分を恥ずかしく思った。

「ありがとう」

史彰にも私の挙動は伝わっているだろう。
でも、どうしてもあのハグから意識してしまう。優しく私を抱きしめてくれた彼を忘れられないでいる。
あのハグは私を慰めるため。安心させるため。他意はないというのに。

「夕子、手が冷たいね」
「手袋してたんだけど、冷え性だからか、中で冷えちゃうのよ」

缶コーヒーで温めていると、史彰が手を差し出してきた。

「手、温めてあげるよ」
「え」

どきんとしながら、私は迷う。
だけど、ここで断ったら二度と史彰はこんな誘い方をしてこない気がする。実は結構小心者だもの。

「ん」

私はコーヒーを置き、思い切って両手を差し出した。史彰が大きな手で包んでくれる。
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