仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「手、大きいよね」
「いや、俺は小さい方。あ、一緒にアメフトやってたメンバーと比べてね」

私からしたら充分大きくて厚みのある手だ。骨ばった手の甲や手首の感じは以前から格好いいと思っていたけれど、温かな手の感触は無性にドキドキとした。

「この華奢な手が、美味しい料理を作ってくれてるんだなあ」

史彰が優しく手を握るので、私は余計に照れてしまう。

「いつもありがとうな、夕子」
「食べてくれる人ができてから、張り合いがあるよ。仕事じゃなくて、誰かのためにごはんを作るっていいなって思う」

軽い口調で言おうと思うのに、史彰のまっすぐな視線に絡めとられたら素直な感謝の言葉が溢れてきた。目を合わせられないくらい心臓の鼓動が早くなってくる。

「史彰、手紙の件から私のメンタルまで気にしてくれてありがとうね。今日だって、気晴らしに誘ってくれたし」
「俺は夕子に楽しい気分でいてほしいんだ。せっかく俺と結婚して、嫌な目にあってほしくない。俺たちの生活は誰にも邪魔できない俺たちだけの幸せな時間だろ?」

史彰が片手で私の髪を撫でる。頬に手を添えられると、うつむきがちだった顔を持ち上げられた。
優しくて真摯な薄茶の瞳とぶつかった。

「何かあったら頼って。俺に夕子を守らせてほしい」

涙がにじんできたのは、喜びと感動だった。他者とここまで深くまじわった経験が、私にはない。
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