仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「もちろん、素朴な料理でバズりたいとは思ってるけど……」

でも、もし私が今まで通りのおしゃれ料理人としか需要がなくても、史彰は私の根っこの部分を知ってくれている。それは嬉しいし、満足できることなのかもしれない。

史彰の存在は想像以上に私に影響を与えている。
彼にとってはどうだろう。私と結婚してよかったと思っているだろうか。

食事の後、片付けやお風呂を済ませ、スキンケアをしながら動画の編集作業に取り掛かる。黙々と作業しているとあっという間に日付が変わる時刻になっていた。
すると玄関のドアが開く音がする。

「ただいまあ」

間もなくリビングに史彰が姿を現した。酔っているようで、少しふらふらしている。

「おかえり。大丈夫? 飲みすぎた?」
「いやー……普通」

普通とは何を指すのかわからないけど、とりあえず無事に帰ってきたのでよしとしよう。
コートと上着を預かると、史彰はソファにどさりと腰掛ける。お水をテーブルに置いた。

「テレビの関係者と飲み会だったんでしょう? 隙を見せるとまた週刊誌にやられるわよ」
「ああ、後藤アナが寄ってきたんだけどさ……」

史彰は緩慢な動作でポケットからスマホを取り出す。タップすると音声が流れだした。

『いいじゃないですか。ふたりで食事くらい』

後藤アナの声が聞こえる。
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