仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
史彰は酔っているのだろう。だからこんなにすらすらと言う。
だけど、私は恥ずかしさと嬉しさで頬がどんどん熱くなっていく。

「勝手かもしれないけど、夕子と会って話してみて、この人は大丈夫だって思えた。俺の感じた印象のままの人だって思えた」

史彰が私の頬に触れる。その触れ方は相棒への信頼ではない。

「夕子とキスしたい……」

熱っぽい視線、史彰のうっすら開いた唇は、私を欲している。

「仮面夫婦は……」
「キスはしないんだよな。……じゃあ、仮面夫婦やめる」

重なった唇は結婚式の誓いのキス以来。もうすることはないだろうと思っていたキスだ。
かすかに触れて離れた唇を見つめ、彼の目に視線を移す。
史彰はなんとも困った顔をしていた。「やってしまった」そんな表情で、私は思わず苦笑いになる。
戸惑うくらいならしなければよかったのに。でも、彼の気持ちがわかる。
私だって、今この瞬間、彼とキスがしたかった。

「史彰……、私が奥さんで後悔していない?」
「後悔なんてするわけない」
「この先も一緒でいい?」

恥ずかしくて声がかすれる。史彰は真っ赤な顔で、もう一度軽く私にキスをした。

「夕子は俺にはもったいないくらいの人だよ。だけど、俺もきみといたいから、これからも一緒にいてほしい」
「しょうがないなあ」

今更どんどん赤くなっていく史彰を見つめて私は笑う。

「これからもよろしくね」

酔いと照れくささで頭をかかえて呻く史彰を、私は寝室に引っ張っていった。
シャワーなんか明日でいい。布団に押し込み、よしよしと撫でると史彰はすぐに眠ってしまったのだった。

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