仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
翌朝、史彰は早々に出かけていった。おそらくお酒も抜け切れていないだろうに、シャワーを浴び、いつもの清潔感あふれる八田弁護士のいで立ちになると、私にぎこちない笑顔を見せ出かけていった。

おそらく昨晩のことをすっかり覚えているのだろう。
酔っていたのを理由にごまかしきれない。私たちは望んでキスをしたのだから。

「史彰って、私のこと好きなのかなあ。でも……」

洗濯ものを干しながら、私は照れ臭いような嬉しいような心地でぼそぼそと自問自答を繰り返した。

体調が悪い若菜のために、オンラインで打ち合わせを済ませ、食材の手配やメール返信などしているうちに夕方だ。
今日史彰は何時頃に帰宅するだろう。朝、そういった話をしなかった。

ふと、スマホに通知が来ているのに気づいた。私のSNSのひとつにダイレクトメッセージがきているようだ。
普段は通知を切っているけれど、先日の手紙事件から妙なダイレクトメッセージが来たら見逃さずに証拠として押さえようと通知をオンにしていたのだった。

見るとそれは後藤花梨アナウンサーの公式アカウントからのものだった。

【桜澤先生、ご主人にはいつも大変お世話になっております。お伝えしたいことがありますので、これから少し出られませんか?】

昨晩史彰が録音してきた音声が思い浮かぶ。
史彰を狙っているのか、幸せを壊したいのか……とにかく既婚の彼にアプローチを続けている女性だ。
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