仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
どうしようかと考えて、会ってみることにした。史彰に対しての態度に、何か他の考えがあるのかもしれない。一応、史彰には後藤アナと会う旨を伝え、手早く仕度をして出かけた。

指定されたのは我が家から車で十分ほどのホテルだ。都心ど真ん中の我が家からは山手線の内側はどこでも気軽に行ける。
一階のロビーに面したティーラウンジで彼女は待っていた。

後藤花梨アナウンサー。明るい茶色の髪は内向きにくるんとカールがかかっていて、目鼻立ちは愛らしい。
女子大のミスコンで優勝するような男女ともに評価されるタイプの女性に見えた。

「お越しいただきありがとうございます」

後藤アナは笑顔だった。
バラエティや朝の情報番組で見かけるときの親しみやすい笑顔が、今は険のある冷笑に見えた。

「初めまして、桜澤です」

私は紅茶だけ注文し、彼女に向き合った。

「動画、よく拝見してます~」
「ありがとうございます。主人がお世話になっております」

後藤アナがにやっと笑ってうんうんと頷いた。

「私こそご主人にお世話になっているんですよ。すごく」

語尾強く言って、彼女は小首をかしげた。

「昨晩、八田さんお出かけでしたよね」
「ええ、ハイローの皆さんとお食事だって伺っています。後藤さんもご一緒でしたよね」
「最初は皆さんと……でしたけど……。ふふ、八田先生のお帰り、遅くはなかったですかあ?」
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