仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「これを聞くと、あなたが夫に一方的に迫っているように聞こえますけれど」
「こんなの、声が似ている人を使った捏造です」

自分で捏造しておいて、よく言うと思う。

「じゃあ、最後まで聞いてみましょう」

後藤アナのねだるような甘い声と拒否し続ける史彰の冷静な声が数分続く。そこに別な男性の声が入った。

『後藤アナ、佐田プロデューサーが呼んでますよ』

それは弁護士の喜多澤先生の声だった。後藤アナが去っていったあと、すみませんと言う史彰の声と『帰りは俺と一緒にタクシーで逃げるぞ』という喜多澤弁護士の声。史彰はきちんと証拠になる方法で、音声を録っておいたのだ。

「昨晩のやりとりですよね。喜多澤先生に確認することもできますが」

後藤アナは顔色をなくして黙り込んだ。

「私の夫に迫るような態度はやめていただけますか?」
「……付き合っていたのは本当よ。あの男はあなたに嘘をついているだろうけど、私は捨てられたの。ネットの掲示板なんかには当たり前みたいに書いてある」

私は史彰の顔を思い浮かべる。あの真面目でちょっと抜けていて大食らいの夫。そんな嘘をつく理由がない。
そもそも私とは契約婚で繋がった関係だ。彼女が元カノなら週刊誌に撮られた時点で、正直に告白しているだろう。

「夫はあなたと交際していた事実はないと言っています。私は夫を信じます」
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