仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
此村先生の弟子でいられなくなったのも、正直そのあたりが大きい。私のチャンネル、先生からまるで学んでいないような料理ばかりだもの。

「で、でも今度、書明社さんが私の家庭料理の企画を上にあげてくれているのよ。それがうまくいけば、イメージを変えられるかもしれない」
「どうかしらねえ」

若菜はハンドルを切り、いつものスーパーに向かってくれている。そろそろ我が家の冷蔵庫の食材を追加しなければならないとわかっているのだ。

「あ」

私はSNSの画面スクロールを止めた。リプライではなく、私の投稿を引用する形でこんなメッセージを見つけてしまった。

『桜澤夕子って家庭料理のイメージじゃないよね。無理してない?』
『普段の綺麗め料理がいい。これ、茶色すぎ』
『家庭的ですよアピールしていきたいの? あざといわ~』
『なんか嘘くさい』

私はスマホをぶん投げそうになり、ぐっとこらえた。
別にいい。個人が好きに呟くSNSだもの。この人たちは私を攻撃したいわけじゃなく、あくまで個人の主観を述べているだけ。こんな意見まで封殺していたら、言論と表現の自由が失われ云々かんぬん……。

つまり、私はそれなりにメンタル強者なので好き勝手言われるのはかまいません! でもその内容が、ぐさっとくるほど気にしていることだとやはり苛立ちは感じてしまう。

「どうした? SNSでムカついた?」
「べ、っつに~。私は私だし~。やりたいようにやるし~」

すると握りしめていたスマホが振動し始めた。見れば、例の書明社の担当者からだ。
< 6 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop