仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
5. 仮面夫婦に愛はないはず?
居心地が悪いわけじゃない。だけど、なんだかむずむずする。
そんな毎日を送っている。
私と史彰が結婚しそろそろ三ヶ月半になる。相変わらず私たちはいいパートナーという関係性なのだけど、以前と心の距離は明らかに違う。
後藤アナの一件から、彼は私に対し好意のような感情をちらつかせるようになった。それが家族としての親愛なのか、恋愛感情が何パーセントかまじっているのか、私にはわからない。
ただ、ものすごく嬉しく感じているのは事実で、そうなるとがぜん、史彰の気持ちが気になりだした。
私と史彰の関係は、相棒から変化を迎えようとしている。
「夕子、今日の夕飯リクエストしてもいい?」
朝の出勤時に史彰がそう尋ねてきた。私はコーヒーをもう一杯注いでいるところで、彼を見つめて微笑んだ。
「いいよ。なあに?」
「えっと、厳密には夕飯はなんでもいいんだけど、小さなケーキを焼いてほしいなって」
ケーキ。面白いリクエストだ。史彰は好き嫌いなく何でも食べるけれど、スイーツをリクエストされたことはない。
「ガトーフレーズみたいなのでいい?」
「ショートケーキのことだよな。それそれ。オーソドックスなのがいいな」
「ふたりで食べるから小さめのホールで焼くわ。ちょうどいいから、SNS用の動画にもしちゃおう」
突発料理は短い動画にして、SNSであげるのが増えた。
幅広い料理を扱うにしても動画チャンネルよりも拒否反応は薄く、むしろ拡散力があるので新規視聴者の獲得につながるのだ。
スポンジケーキはシンプルだけど、丁寧な作業で綺麗に仕上がるものだ。短い動画でどこまで伝えられるか挑戦してみよう。