仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「ありがとう、よろしくな」

史彰の言葉に、ついつい仕事の計画に夢中になっていたと気づく。

「あ、うん。まかせて。気を付けて行ってきてね」

玄関まで見送りに出ると、史彰がぽんぽんと私の頭を撫でた。こうした軽いスキンシップは以前より増えたように思う。

「夕子もお仕事頑張って」
「はあい」

返事する自分の声が想像以上に甘ったるくて驚いてしまった。私を見つめる史彰の目もすごく優しくて、なんだか私たち、本物の新婚夫婦みたい。
いや、偽物というわけではないのだけれど。



その日は体調が回復した若菜が打ち合わせに来てくれた。つわりは落ち着いてきたとのこと。

「後藤アナからのちょっかいはもうないのね」

二週間前の後藤アナの事件は若菜に報告済である。若菜とは以前の手紙の件も含め、私の身辺で仕事に関わりそうな事案は共有しているのだ。

「おかげ様で今のところは」
「掲示板なんかも荒れてないし、後藤アナも自分の立場を失うのが怖くて黙ったのかしらね」

若菜は私の代わりにネットの掲示板なども巡回し、悪意などの片りんがないか探してくれている。マネージャーの務めだと本人は言っていたけれど、私に手紙を送ってきた人物を警戒しているのだろう。

「史彰がしっかり拒否したから、もう大丈夫だと思う。変な手紙や嫌がらせもあれから来てないし、お腹の赤ちゃんの胎教に悪いから、あまりネット巡回しなくていいからね」
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