仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
翌朝、目覚めたのはかろうじてベッドだった。史彰の寝室だ。
ソファで抱き合い、ベッドに移動してまた行為を繰り返した。お互いまだまだ若いなと感じるくらい情熱的な夜だった。
きしむ身体を起こすと、隣では史彰がすうすう寝息をたてている。
なんて可愛い寝顔だろうとつい思ってしまった。無邪気な子どもみたい。
茶色がかった髪の毛を撫でていると、瞼が震え、薄茶の瞳が見えた。

「おはよ」
「夕子、……おはよ」

史彰は最初、寝ぼけているのか事態をよく飲み込めていなかったようだ。
どうして寝室に裸の妻がいるのだろうと考え、昨晩を思い出したようだ。がばっと跳ね起きると、私を見つめ真っ赤な顔で口をぱくぱくさせている。

「えっと、あの……痛くなかった?」
「男性と関係を持つのが数年ぶりなので、ちょっと違和感はあるけど、平気よ」
「夕子、俺……」
「まだ聞かせてもらってない言葉があるんだけど」

小首をかしげて悪戯っぽく言ってみたものの、やはり私から伝えたい。
私は呼吸を整えるためふうと息をついて、彼の手に自分の手を重ねた。

「好きよ、史彰。結婚して、どんどんあなたに惹かれていった」

史彰の目が潤み、涙がこぼれる。感極まった唇は震えている。本当になんて可愛い人だろう。

「俺も夕子が好きだ。ごめん、たぶん一番先に言わなきゃいけない言葉だった」
「いいわよ。あんなセックスした時点で、気持ちなんか伝わってるもの」

私は笑って、彼の頬にキスをした。涙でしょっぱい頬だった。

「契約婚の仮面夫婦が、本当の夫婦になっちゃったね」
「ああ、こんなに幸せでいいのかな」
「いいに決まってるじゃない」

私たちはもう一度キスをして、お互いの身体をきつく抱きしめた。



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