仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「はい、桜澤です」
着信に出ると、担当者が開口一番言った。
『桜澤さん! 申し訳ありません!』
もうすでに嫌な予感はしていた。
『桜澤さんと練っていた家庭料理本、企画がボツになってしまいまして』
やはりそうか。急な連絡をくれるなんておかしいと思った。でも、担当と打ち合わせしていた時点では好感触だったのに。担当だってノリノリで企画書を作ってくれたのに。
『いや~、うちの上層部にも桜澤さんのファンが何人かいるんですが、『桜澤夕子の名前で出すならもっと洗練された上質な料理本にしろ』と言うんです。確かに桜澤さんのイメージは、都会的でシックでありながら、華やかさと粋な風情のある料理だと……』
「あ、ありがとうございます。承知しました。残念ですが……わかりましたので」
『そういったわけで、出版自体は有りなんですが、ちょっと方向性を変えてご相談したくてですね。お打ち合わせのお時間をいただけましたら』
私は出先なので、メールを送っておいてほしいとだけ伝え電話を切った。
深いため息をついてしまう。電話の音声は丸聞こえだったようで、若菜が慰めの言葉をかけてきた。
「裏目に出るときはあるよね」
「慰め方が雑」
「仕方ないじゃん。みんな夕子に“美人でおしゃれな若手料理研究家”を見たいんだよ」
自分で作ったイメージに振り回されて、私って馬鹿みたい。
結局、本当にやりたい仕事ができていないなんて。
着信に出ると、担当者が開口一番言った。
『桜澤さん! 申し訳ありません!』
もうすでに嫌な予感はしていた。
『桜澤さんと練っていた家庭料理本、企画がボツになってしまいまして』
やはりそうか。急な連絡をくれるなんておかしいと思った。でも、担当と打ち合わせしていた時点では好感触だったのに。担当だってノリノリで企画書を作ってくれたのに。
『いや~、うちの上層部にも桜澤さんのファンが何人かいるんですが、『桜澤夕子の名前で出すならもっと洗練された上質な料理本にしろ』と言うんです。確かに桜澤さんのイメージは、都会的でシックでありながら、華やかさと粋な風情のある料理だと……』
「あ、ありがとうございます。承知しました。残念ですが……わかりましたので」
『そういったわけで、出版自体は有りなんですが、ちょっと方向性を変えてご相談したくてですね。お打ち合わせのお時間をいただけましたら』
私は出先なので、メールを送っておいてほしいとだけ伝え電話を切った。
深いため息をついてしまう。電話の音声は丸聞こえだったようで、若菜が慰めの言葉をかけてきた。
「裏目に出るときはあるよね」
「慰め方が雑」
「仕方ないじゃん。みんな夕子に“美人でおしゃれな若手料理研究家”を見たいんだよ」
自分で作ったイメージに振り回されて、私って馬鹿みたい。
結局、本当にやりたい仕事ができていないなんて。