仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
体調の変化はここ数日のことだ。朝と夕方、胃がむかむかする。昨日は動画を撮った後に、完成した煮物の匂いが苦しくなってトイレで吐いてしまった。

これはもしかしてと思いながら、いつ調べれば反応が出るかと考え、まだ検査薬を買っていない。

此村先生の家の帰り道、私は妊娠検査薬を薬局で購入した。
自宅で検査をすると陽性。私はすぐに受診できる産婦人科を探したのだった。


「ただいま」

その晩、史彰は少し遅く帰ってきた。収録ではなく、テレビ局との打ち合わせがあったそうだ。

「おかえり」

迎えに出ると、史彰は笑顔だ。

「夕子、聞いてくれ。ハイ&ローの出演、あとひと月で終わりにできる!」
「あら、そうなの?」

元から進んで参加していた番組ではない。上司命令で仕方なくテレビに出た結果、彼はチャラ男だの不真面目そうだのとレッテルを貼られ、本業に苦労したのだ。

「後輩の坂本に引き継ぐことになった。俺が、安治野先生からいくつか担当企業を引き継ぐからなんだけどね」

つまり彼は弁護士として事務所で忙しくなる。だから、テレビ出演などの宣伝業務から撤退命令が出たのだ。

「よかったね。史彰が頑張って仕事してきたのをボスが見ていたんだね」
「そうだなあ。認められたみたいで嬉しいよ」

満面の笑みの史彰とリビングに戻りながら、私はもじもじと切り出すタイミングをはかった。
史彰は手洗いをしてくると、キッチンでお鍋を覗いたり、冷蔵庫のビールを探したりしている。上機嫌で鼻歌なんか歌っているのだから、可愛い人だ。
私は思い切って彼の背中に抱きついた。
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