仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「夕子? どうしたの?」
「赤ちゃん!」

なんて言っていいかわからなくてそのままを伝えてしまった。史彰が首をねじって私を見下ろす。

「赤ちゃん……」

おうむ返しをして、それから驚いた顔になった。

「赤ちゃんって! 妊娠!?」
「う、うん。今日、わかったばかりで……」

向き直った史彰の手を取り、私は自分の下腹部に当てた。

「ここに入ってるの。まだすごく小さいけど、私たちの赤ちゃん」

史彰の手が震えている。見上げると、彼の双眸からは大粒の涙があふれていた。

「史彰、気が早いよ。泣きすぎ」
「ごめん、でもなんか感動しちゃってさ。嬉しくて」

ぽろぽろ涙を流す史彰を、私は思い切り抱きしめた。大好きな史彰。私のお腹に彼の血を引く子どもがいる。

「安定期に入るまで、両親や周りの人には内緒にしておくつもり。いいかな」
「ああ、そうしよう」
「動画はお腹が大きくなるまではわからないと思うけど、落ち着いたら報告するよ」
「一緒に俺も出る?」
「やーめーて。カップルチャンネルみたいになっちゃう。これ以上キャラ変はいらないの」

そう言ってふたりで笑い合った。

「大事にしよう」
「うん」
「夕子と俺の赤ちゃん、早く会いたいなあ」

史彰の声が本当に幸せそうで、私は彼の腕の中で喜びに浸った。
私と史彰のもとに赤ちゃんがやってくる。
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