仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
ああ、明日の動画撮影のために今夜レシピを決めるけれど、きっと私はひよっていつもの見た目重視な格好いい料理にするんだわ。再生数が稼げて、SNSでみんなが褒めてくれるものを作るのだ。そんなのって本当の私なのかしら。

「日本のお母さんのイメージ、私にはずっと手に入らないのかな」

憧れの此村先生みたいにはなれないのだろうか。此村先生はいつも私に「桜澤さんはそのままでいいのよ」と言ってくれたけれど、評価されている私が「そのまま」なのか、本質的な私が「そのまま」なのかわからなくなりそう。ナチュラルにイメージを変えていく術はないのだろうか。

「結婚したり、子どもを産んだりしたらイメージに変化があるかしら。お高く留まっている雰囲気の女優さんも、ママになったら優しい役が来たりするじゃない」
「夕子の場合も女性芸能人がママタレ化するのと近いから、変化はあるかもしれないけど。結婚のアテなんかあるの?」
「……ない」

恋愛経験は高校時代に付き合った同級生の男子と、大学時代に付き合った先輩のふたりだけ。どちらもあまり長続きせずに終わってしまった恋だ。今は仕事が忙しいのと、一応動画などで露出がある商売なので、飲み会などの出会いの場には行きづらかったりする。
すると、若菜が思い出したように「あ」と呟いた。

「夕子と似たような悩みの人がいるわ」
「私と? イメージ戦略失敗系の悩み?」
「そうそう。うちの旦那の会社の顧問弁護士さん」

若菜は一回り上の会社経営の男性と結婚した。
その会社の顧問弁護士が、私と同じ悩みとはどういうことだろう。
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