仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
7. 夫婦の姿
七月の初旬、私と若菜が力を入れてきた企業の生配信イベントがやってきた。
私は妊娠四ヶ月後半、つわりもほぼなくなった。お腹はまだぺたんこのままで、妊娠の報告はもう膨らみが目立ってきたらにしようと決めている。
「夕子、準備OK?」
控室に若菜が顔を出す。大きなお腹は予定日までまだ二ヶ月弱あるのにはちきれそうだ。この仕事が終わったら、若菜には産休に入ってもらう。
「OKよ」
「夕子の調理中、背面のモニターでは配信が行われてるからコメントもバンバン入るよ。変なコメントや荒しは、私とスタッフですぐに対応するから、安心して」
「大丈夫よ。気にしすぎないで」
若菜は私のストーカー被害から、いっそう気を配り、トラブルを回避できるよう動いてくれている。
本当にありがたい限りだ。
「会場での観客のあしらいは心配してないから。夕子、そういうの上手だもん」
「でしょ? 信頼してよね」
私のストーカー被害は、一般のニュースにはなっていないが、今回の協賛企業の担当者、イベント会社スタッフには話してある。そのため、会場に入る観客の持ち物とボディチェックはかなり厳しいそうだ。
ふとスマホに史彰からメッセージが入っているのに気づいた。今日、彼は休日なので家で配信を見ると言っていた。
【夕子、頑張れ。帰ったらいいものがあるよ】
思わず吹き出してしまう。たぶん、何かサプライズを考えてくれているのだろうけれど、隠しきれていないのが彼らしい。
本当に、こんな純朴な人を捕まえて、世間はチャラ男だなんて言っているのだから笑ってしまう。
「桜澤先生、そろそろお願いします」
控室にスタッフが迎えにきて、私は立ち上がった。
さあ、イベントの始まりだ。