仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
イベントは盛況だった。
抽選で招かれた観客は普段から私の動画を見ている視聴者が多く、反応は温かかったし、生配信のコメントも荒れるようなことはなかった。

ホットプレートを使ったパエリアや家族で作れるミニピザやホットサンドを実際に作りながら紹介していく。
生配信自体は一時間ほどで、調理パート、試食パートに分かれている。プロのMCが進行をしてくれるので私は調理と説明をメインにできるのがありがたい。

メニューが完成すると、拍手が起こった。コメントでも【美味しそう】【作ってみる】などがずらりと並び、嬉しい反応だ。
あらかじめ抽選で決まっていた観客数名が試食する。
最初の若い女の子二人組は「先生のファンです~」と可愛い声で宣言し、美味しい美味しいとパエリアを味わってくれた。

次は私と同じくらいの女性だ。ホットサンドを食べ、上品な笑顔で「美味しいです」と言い、それから私をじっと見た。

「先生はイメージアップのためにご結婚されたんですよね。家庭のママが作りそうなメニュー、以前の先生なら作りませんでしたよね」

悪意のある視線と言葉にどきりとする。
あのストーカーの女性とはまた違った嫌な感触がした。彼女は以前の私のファンなのかもしれないし、史彰のファンなのかもしれない。
ともかく、今この瞬間を否定したい気持ちが、彼女の言葉とまなざしから伝わってくる。
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