仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
エピローグ
よく晴れた秋の日、私と史彰は紅葉の美しい山へハイキングにやってきた。山といってもぎりぎり東京都内で、ロープウェイも整備された散策に向いた観光地。
私は妊娠九ヶ月目も後半に入った。医師からは体重増加が心配なのでたくさん運動をしてほしいと言われ、こうして史彰の休日は一緒にあちこち歩き回っている。
史彰は私がいつ体調に変化が現れるかわからないと、自家用車を購入し、新生児用のベビーシートもしっかり後部座席に設置してくれた。
「紅葉が綺麗! SNSにあげちゃおうかな」
ロープウェイで登った先は開けていて、美しい紅葉もふもとの街並みも見える。お茶屋さんもあるので、休憩にもよさそうだ。
「いいんじゃないかな。夕子の視聴者は、配信がお休みに入るってわかってるから、些細な日常の報告も嬉しいと思うよ」
史彰はリュックサックからペットボトルを出して私に手渡してくれる。ふたり分の荷物とお弁当の入ったリュックサックは史彰が担当してくれている。
「お弁当、どこで食べようか」
「もう少し上に上ったところのベンチでもいいけれど、できれば頂上まで行きたいな」
私の希望に史彰が苦笑いをする。
「まだ出産予定まで間があるのはわかるけど、あまりロープウェイから離れるのは心配だな」