仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「昨日の健診でも赤ちゃんはまだかなり上の方にいるって言われたから大丈夫。それより運動よ、運動。史彰と一緒にごはん食べてたら、体重が増えすぎていて注意されちゃったんだから」
「うーん、俺のせい~?」

史彰はそういうけれど、毎食美味しそうにお腹いっぱい食べる彼といると、びっくりするくらいつられて食べてしまうのだ。

「安産のために運動! もちろん、無理はしません。お腹が張ってきたら休むし、少しでも変だったら引き返す」
「約束してくれよ。まあ、もしもの時は俺が夕子をお姫様抱っこして戻るけど」
「恥ずかしすぎるからやめて」

風は少し冷たいくらいで、山歩きにはちょうどいい。赤や黄色の鮮やかな風景を眺めながら、ゆっくりと頂上を目指す。史彰はときに私の手を引き、ときに私の背を押し、一緒に歩いてくれた。

「早く、夕子の作ってくれたお弁当を食べたいな」
「食いしん坊ね」
「夕子の作ってくれる料理限定だよ。俺も夕子と暮らしだして体重増えたもん」

笑い合いながら進む私たちの視界に頂上が見えてきた。開けた空と草地、周囲の色づいた山々。高く鳴く声は鳶だろうか。
心地よい空気に私はぐんと伸びをした。

「史彰、素敵な休日をありがとう」
「俺にとっても楽しい休日だよ。夕子とデートだしね」

そう言った史彰のお腹がぐうと鳴り、同じタイミングでお腹の中の赤ちゃんもぽこぽこと私を蹴った。

「ふたりともお腹が空いているのね。さあ、お昼にしましょう」
「あそこにシートを敷いたら景色がいいよ。行こう、夕子」

史彰が私の手を強く握る。眩しい笑顔を見つめて、私もまた強くその手を握り返した。

契約から始まった私たちは、恋を知り、愛を交わし、もう少しで親になる。


(おしまい)
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