仮面夫婦とは言わせない――エリート旦那様は契約外の溺愛を注ぐ
「八田史彰って知ってる? 『ハイ&ロー』って法律番組に出てる弁護士さん。イケメンで有名だよ。雑誌とかにも出てる」
「え、知ってるような知らないような。ごめん、テレビ見ないから」
「知らないのね。ともかく、彼もイケメン過ぎて悩んでるって旦那が言ってた。上司命令でテレビや雑誌に出たら人気出ちゃって大変みたい。普段の仕事も差し支えるほどらしくてね」
「へ~イケメンって大変ねえ」

どこか他人事っぽく言ってしまうのは、なんだか贅沢な悩みに感じたからだ。だって、イケメン過ぎて困るだなんて普通は言えない悩みでしょう。私はイメージのためにケアやメイクについてはそれなりに努力しているつもりだ。

「結婚したいらしいよ。イケメンフェイスは変えられないから、肩書が欲しいのかもね」
「女除けってこと? そんなにモテる人、会ってみたいわ」

私は軽く笑い飛ばしたけれど、若菜は至極普通の声音で言った。

「詳しくは旦那に聞いてみる。もし、夕子が興味あるなら、会えるようにセッティングするよ」
「はいはい。あ、若菜、スーパーの後、郵便局に寄ってもらってもいい?」
「なんで先に言わないのよ。生鮮買うんでしょ?」
「すぐだから、すぐ」

スーパーと郵便局を回り、若菜に送ってもらい帰宅すると、すぐに動画のレシピを考える作業に入った。そのせいかこのときにした会話を、私はすっかり忘れていたのだった。

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