本気で"欲しい"と思った。〜一途なエリートドクターに見染められました〜
「ありがとうございました。わざわざ送っていただいて」
「いや、気にしないで。それより、中見て行ってもいい?」
「あ、はい。ご自由に。私はもう行かなきゃなので帰り気を付けてくださいね」
「うん。ありがとう。頑張ってね」
手を振る和音に頭を下げてから軽く振り返し、【茅】の従業員口から入って行った由麻。
和音はそれを見届けてから、正面からお店の中に入った。
「いらっしゃいませ」
心地の良いボリュームの声に出迎えられながら、歩いて中に進む。
甘い香りが全身を包む。
どこか懐かしさを覚えるその香りに、端正な顔が綻んだ。
店内をくまなく見て、苺大福とわらび餅を買ってお店を出た和音。
和音は極度の方向音痴だが、不思議なことに一度覚えてしまえば二回目からはスムーズに目的地にたどり着くことができる。
純粋に地図が読めないのだろう。
これでアメリカでまともに医者をしていたのだから驚きだ。
まして実績と名声共にエリートコースを歩んでいるのだから、才能とは計り知れないものだ。
【茅】に来たのは久し振りだったものの、何故か帰り方は記憶にあったようで帰りは迷うことなく進む。
海外から戻ってきたばかりの和音は、まだホテル暮らしだった。
何年もアメリカで医者として働いてきた和音はいやらしい話、お金は沢山稼いできた。
そして物欲があまり無い和音にとってそれはただの数字に過ぎず、食事と生活必需品の買い物以外には全く使っていなかったため貯金は貯まる一方。
その莫大な貯金がこんなところで役に立つとは思っていなかった。