本気で"欲しい"と思った。〜一途なエリートドクターに見染められました〜
「もっと狭い部屋でも良かったんだけどな……」
【茅】から程近い駅ビルの中にある高級リゾートホテルにある、ロイヤルスイートルームのリビング。その中央に置いてあるソファに腰掛けて天を仰ぐ。
首を回すとパキパキと音が鳴った。
貯金もあるため帰国してすぐに急いで就職するつもりはなかった。
どうせ就職と言ってもその先は二階堂総合病院と決まっている。近い将来、父親の跡を継いであの病院の院長になるのだ。そのためにアメリカで修行してきたのだ。
小さい頃から言われていたためその覚悟も、それに見合うだけの技術も身につけてきた。
パソコンを立ち上げると画面には何やら小難しそうな英文がびっしりと書かれている。
それは和音がアメリカ時代に書いた論文のデータ。まだ日本では承認されていない難病の特効薬ではないかと言われている新薬の臨床実験を経て実際に患者に投与した際の経過を記したもの。
日本の医療の発展のために学会に提出予定のものがその他にもいくつかあった。
買ってきた苺大福を摘みながら、その論文の要点だけを新たにまとめてわかりやすいものにする。
つい数日前までは同じようにパソコンを起動すると黙々と時間を忘れてしまうくらいには集中していた。周りの音も聞こえていないかのように。
しかし由麻に会ってからというもの、頭の中を由麻の顔がチラつく。
今彼女は何をしているのだろう。仕事を頑張っているのだろうか。手は痛くないだろうか、何か困っていることはないだろうか。
自然とそんなことを考えてしまう。
そして、愛美に言われたことを思い出すのだ。
"恋に落ちた、みたいな顔"
由麻を想うと、胸が温かくなった。
久し振りに、こんな気持ちになった。
「……アイツは人をからかいすぎなんだよ」
ここにはいない妹に悪態をつく。
「十個も下の妹の友達に……なんて気持ち悪いか……?」
しかし気持ちを自覚した、なんて言ったらさらに面白がられてしまいそうな予感がした。
「……寝るか」
医学とは全く違い答えの出ない問題に思考を放棄し、パソコンを閉じてそのままソファに横になって目を瞑る。
完全にまだ直っていない時差ボケのせいか、すぐに眠りに落ちていった。