本気で"欲しい"と思った。〜一途なエリートドクターに見染められました〜
「……由麻ちゃん」
聞こえた声に、視線を動かした。
「俺、今までまともな恋愛したことなくてさ」
「……」
「デートプラン考えてもすぐ迷っちゃって、幻滅されてフラれちゃうんだ」
由麻から視線を離して池の中の鯉を見ながら語り出す和音に、倣うように池の中を見つめる。
「この間病院で初めて会った時もさ、受付にも看護師さん達に道聞いたのに何でか迷っちゃって。何回歩いてもエントランス帰ってきちゃって。ずっとアメリカにいたから俺のこと知ってる人なんてほとんど病院にいないし、仕事中にそんなこともう一度聞くのも恥ずかしいし迷惑かけるし、でも当たり前だけどすれ違う人達は俺のことなんて気にも留めないし。色々考えてたら聞き辛くて」
「……それは確かに。そうですね」
案内図見ながら道を聞いてくる人なんて、滅多にいないだろうから。
頷く由麻に、和音は自嘲するように笑った。
「だから、由麻ちゃんが愛美の病室まで案内してくれて本当に助かったんだ」
「そんな。私も暇だっただけですよ」
「それでも、俺が迷っても"飽きない"って言ってくれる人は、由麻ちゃんが初めてなんだ」
言われて、由麻は数分前に自分が言った言葉を思い出す。
「あぁ。あれですか?……だって、面白いじゃないですか。とても優秀なドクターで、英語もペラペラで、眉目秀麗でとってもかっこよくて。なのに極度の方向音痴って。意外性凄くないですか?
確かに最初はびっくりしましたけど。人間誰でも苦手なことはありますからね」
「……苦手なこと?俺のは欠点だよ?」
和音は驚いて由麻に視線を移す。それに気付いた由麻も振り向いて、視線が絡み合う。
ただそれだけのことで、和音は苦しいくらいに心臓が痛む。