本気で"欲しい"と思った。〜一途なエリートドクターに見染められました〜
「……私、は……」
「……」
「……私も。……好き、かもしれません」
その小さな呟きは、風に乗って何処かへ飛んでいく。
しかし和音はそれをしっかりと拾っていた。
「え……本当?」
コクリと頷くことしかできない由麻に、和音は由麻を包む腕の力を強める。
「……でも、私」
「ん?」
しかし、由麻はその腕から逃れるようにそっと肩を押した。
「私、和音さんと付き合うことはできません」
「……どうして?」
和音を見上げる由麻の目の奥は、揺らいでいた。
「……私、近い将来にお見合いして、そのまま結婚することになってるんです」
「……そういうことか」
「はい。だから、和音さんとは私っ」
「──じゃあ」
由麻の言葉を遮るように口を開いた和音。そこから飛び出す言葉に、由麻は目を丸くした。
「じゃあ、そのお見合い相手に俺立候補しても良いかな?」
「……えぇ!?」
「自分で言うのもなんだけど、由麻ちゃんの相手として申し分無いんじゃないかと思うんだよね」
顎に手を当てて考え込む和音に、由麻は言葉を失う。
確かに和音の言っていることは正しい。
大病院の院長の長男。父親と同じ医者を生業としていて頭脳もずば抜けているのは明白。
何よりも昔からお店を贔屓にしてくれている。
由麻の両親としても、和音であればお見合い相手として文句の付け所がないだろう。
自分でそんなことを言ってしまうあたりも、自信の現れとも見て取れる。