本気で"欲しい"と思った。〜一途なエリートドクターに見染められました〜
そして車椅子からベッドに戻って横になった時に、ふと思った。
「そう言えばお兄ちゃん、ここまでどうやって来たの?迷わなかった?看護師さんと一緒に来たの?」
家族である愛美はもちろん和音の方向音痴具合をよく知っていた。
愛美は苦笑いをしながら頭を掻く。
「実はさ、日本が久し振り過ぎてどうにかここまで帰って来れたのは良かったんだけど。エントランスの横で迷子になっちゃって」
「やっぱり。ロビーで誰かに聞けば良かったのに」
「いや聞いたんだよ。ここに来るまでの道順も聞いたんだ。だけど気付いたら何故かエントランス横に戻ってきてたんだよね」
「……」
本気で不思議そうに首を傾げる和音に、愛美は呆れて溜息しか出なかった。
和音は昔からずっと極度の方向音痴で。
地図を渡してもまず見方を理解していないし、口頭で道順を教えても頭の中でそれが図として組み立てられないのかすぐに忘れてしまう。
誰かと一緒に歩いた道や何度も通る道なら自然と覚えられるのだが、この病院が久し振り過ぎてすっかり忘れてしまっていた。
「それで偶然目が合った人に案内してもらったんだけど、その人が愛美の友達の子でね」
「え!?」
「確か茅野由麻さんって言ってたな。ここまで連れて来てもらった」
愛美は和音の話を聞いて頭を抑えつつ溜め息を吐き、すぐに由麻にスマホでメッセージを送る。
"お兄ちゃんが迷惑かけたみたいでごめん!ありがとう!お兄ちゃんありえないくらいの方向音痴だから怪しかったでしょ?"
すぐに来た返事。
"案内の液晶をじっと見つめてたのに急にこっち来るから何かと思って。愛美のお兄さんだって知らずに最初凄い目で見ちゃったの。今度お会いしたら謝らないと"
それを見て
「お兄ちゃん、やっぱりその方向音痴直そうよ。側から見てると挙動不審すぎるよ」
と残念なものを見る目で見つめる。
そんな目で見られるのも慣れている和音は、ヘラリと笑う。
「うー……ん。治せるものならとっくに治してるからね」
「……それもそうだね」
和音のそれは、もはや病気扱いだ。