本気で"欲しい"と思った。〜一途なエリートドクターに見染められました〜
和音は現在三十二歳。先日までアメリカで生活していた。
父親の背中を追いかけ日本の医師免許を取得。
そしてすぐに研修医として大学病院に三年勤務した後に渡米。
向こうでの試験に合格してアメリカの医師免許を取得した後、そのまま臨床研修を経て勤務医として五年働いてきた。
合わせたわけではないのに昔聞いた父とほぼ同じルートをとおってから帰ってきた和音。
「お兄ちゃん、仕事は?」
「ん?辞めてきた」
「……は!?辞めてきたぁ!?」
何てことないように笑った和音に、愛美は絶句する。
しかし和音は何食わぬ顔で由麻が持ってきていた葡萄を一つ摘む。
「元々近いうちにこっちに帰ってくる予定だったんだ。親父にも早く継げって催促されてたし。その予定がちょっと早まっただけだよ」
「……だからってそんな急に……。私が事故に遭ったから?」
「まぁそれもある。実際物凄く心配だったし。でも事故の状況も愛美の怪我の具合も聞いてたからそれだけが理由じゃないよ」
タイミングが偶然重なっただけ。そう言う和音に、愛美は複雑な心境を抱えながら曖昧に笑った。
もう一粒葡萄を摘む和音は、「そう言えば」と咀嚼しながら思い出すように口元に手を当てた。