死体写真
「とにかく、うちに来るか? このままじゃどこにも行けないだろ?」


裕之が持ってきてくれたのは、裕之の母親の服だった。


ズボンもTシャツも少し大きめだし、サンダルで歩くには足が冷たすぎる。


一旦どこかへ避難して、それから考えたかった。


「裕之の家ではなにも起こらないかな?」


加菜子はまだ怖がっている。


自分の一番身近な人と言っても過言ではない母親があんな姿に豹変したのだ。


本当は私達と一緒にいることだって怖いのかもしれない。


けれどひとりになるのはもっとこわい。


そんな感情がふつふつと伝わってくる。


私はそんな加菜子の手を握りしめた。


ついさっき見たかなこの母親の豹変ぶりを思い出すと大丈夫だなんて言えない。


今はこうして寄り添って、呪いに逆らうことしかできない。


加菜子がこちらへ視線を向けて手を握り返してきた。


不安と恐怖で胸は張り裂けそうになっているだろうに、その足取りはしっかりとしている。


「とにかく家に来て、それからまた調べよう」


前を歩く裕之の言葉に頷こうとした、そのときだった。


しっかりと握りしめられていた手がするりと解けた。


加菜子がふらふらと1人で歩き出す。


「加菜子、どうしたの?」


歩く背中の様子がなにかおかしくて声をかける。


振り向いた加菜子は目に涙を浮かべて顔面蒼白になっていた。


真っ白な顔で口をパクパクさせて、なにかを訴えかけようとしている。
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