虹色のバラが咲く場所は

237話 カルボナーラ

玄関を開けた瞬間、いい匂いがする。
(類と雪希の靴がない。
ということは、・・・まさか蓮が!?)

「ただいま!」
「あ、おかえり舞。
お腹空いてる?」
「え、まぁ」
焦る私と裏腹に上機嫌な蓮。

ガラス保存容器から湯気がでている。
「なにしてるの?」
「お昼ご飯にパスタ作ったんだ。
食べてくれる?」
「え・・・う、うん」
(蓮の料理か)

今まで類か私の手伝いしてくれた時は
卵を割ったら殻が入る、計量しない、
包丁使う手が危なっかしい、
味見しない、段取りが悪い、
よく焦がす・・・。
あげたらキリがない。
(その蓮が・・・1人で!?)

容器からお皿に移したのはカルボナーラ
「い、いただきます」
すでに割れている卵黄をパスタに絡め
クルクル巻いていざ。

(ん、ちょっとしょっぱい。
電子レンジで加熱する時に塩が
多かったかな。
これは黒胡椒?殻じゃないかな。
殻だったらもっと固い、あ、辛い。
やっぱり黒胡椒だ。
あ、このベーコン繋がってる。
あれ、少ししょっぱいくらいで
ぜんぜん食べられる)

「電子レンジで作れるレシピ見つけたから作ってみた。どう?
まぁ聞かなくてもお気に召したようで」
「美味しかった、です」
ニコニコと上機嫌にお皿とフォークを
下げる。

「類にネギ、肉や魚は
キッチンバサミで切れって言われたんだ。そっちの方が安全だからって」
(たしかにそばにいる私もこれで
ヒヤヒヤしなくて済む)

洗う時も丁寧だし、調理道具同士を
ぶつけることもない、泡だってちゃんと
確認してる。

「変わったね」
「類に言われたんだ。丁寧に扱わないと物に失礼だ、て。」
洗った食器を私が拭いて、元の場所に
戻してひと段落。

舞が思い出したように言う。
「あ、ありがとう、蓮。
SNSのこと教えてくれて」
「いや、どうってことないけど。
大丈夫なの?」
「兄妹だって言ってそれで収まれば
よかったんだけど、甘かったよ。
いったら悪いけど疑り深い人がいて
兄妹て設定で付き合ってるんじゃないの?混乱するって分かっててなんで
黙っ出たのって。
翔のことも悪く言われてた」

(俺の場合は茉里が一般人だからかな。
でも同じ業界にいてこんな騒ぎになる
なんて本人たちが1番思ってないだろうな)

「こういうのってファンでもなんでもない人が面白がって便乗するんだと思う。その人たちがどうなろうが自分には関係ない。ただ呟いただけって。
そのたった一つの呟きでどうなろうが
支障は出ないから。」

影を落とした舞になんて声をかければいいかわからない。
「挑戦状の結果も身内票とか
言われるのかな。」

舞は長く息を吐いた。
「電車に乗ってる時も過敏に
なっちゃってさ。話し声が全部
私たちのことを言われてるみたいに
思っちゃった。
後ろめる必要なんてことなんて
ないのに。翔の前ではそんな人たちは
置いて私たちは進むって豪語して
おいて。
・・・怖く、なってきちゃった」

「舞は、憶測で物を言う人たちに
負けるの?」
「そんなこと言ったって、蓮の時と
状況が違うじゃん。
本気で悩んでるのになんで
そんなこと言うの!?」

階段を駆け上がり、
部屋に籠ってしまった。
(ミスった、かける言葉間違えた)
また前を向いてくれると思ってた。
でもそれは思い上がりで、追い詰めた。

誰かに認められたいと思ったのに、
追い詰めてどうすんだ
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