虹色のバラが咲く場所は

262話 蒼葉颯太

「初めまして、類の父の蒼葉颯太と
申します。妻のさゆりです。七瀬さんからここで生活していたと伺いまして。」
「そう、なんですか。
立ち話もなんですしどうぞ」
「お邪魔します」

さゆりさんが頭を下げ、
慌てて私も頭を下げる。

「どうぞ」
ソファに座ってもらいお茶を出す。
「ありがとうございます」

類のお葬式は身内だけで行ったことを
聞いた。

「そう、ですか」
「忙しくて挨拶が遅れてすみません。」

颯太さんはお茶を一口飲んでから
辺りを見渡す。
「あの、他の2人は?」
「2人は実家に帰っています。」
「そうですか。
2人にも挨拶したかったのですが残念
です。あなたは帰らなくてよかったんですか?」
「私は帰っても、いえ、ただの気分
です」
(翔も帰れないって言ってたし)

「そうですか。類はどんな感じでしたか?聞いてもまた今度とはぐらかすばかりで」 
「類は私たちのリーダーでした。
ライブ前で緊張した時は鼓舞してくれる、アドリブができて、どんなことにも真剣で。勉強や運動、他にもなんでも
できて、でも腹黒くて。
そんな、私たちにとってかけがえのないリーダーでした」

話しているうちにどんどん思い出が
頭に浮かぶ。
(ありがとう、類)

その後は類の部屋に案内した。
整理整頓されて部屋。
棚には教科書の他に参考書が数冊。
机の上にはクリスマスライブ衣装の
デザイン案、ライブの流れなどの紙が
散乱していた。
(きっと帰ってきてから片付けるつもりだったのかな)

紙を触ることはしなかった。
止まった部屋の時計が一瞬でも
動きそうで。

「急にお尋ねしてすみませんでした」
「あ、いえ。」
(元旦。この家にいない可能性の方が断然
高いのになんで今日?
私が、帰らないってわかって、いや、
ただの偶然だよね)

「あの、あなたと他のメンバーの名前を伺ってもいいですか?」
(HPには名前だけだったからな。)
「緋色担当の高坂蓮。
黄緑担当の中原雪希。私が赤紫担当の日比谷舞です。」

私の名前を言った瞬間明らかに2人の目の色が変わった。
「日比谷、」
何かに絶望したような。
「ほかにご兄弟は?」
「7つ上に兄がいますけど。」

「そうだ、君はあの時の!」
(あの時?)
颯太さんは信じられないと言った様子で、
わなわなと手を震わせて土下座をした。
「な、なんですか。急に」
「すまなかった!俺が
俺があんなことしなければ君たちの両親は、死ななかった!」
(・・・は?)

そして、颯太さんから告げられたのは
あの事故のことだった。

(類は知ってたのかな、このこと。
知ってたとして怖かったのかな。
私だったらもう仲間だなんて見てくれ
ないかもって怯えただろうな)

さゆりさんは深く頭を下げていて、
その手は震えていた。
(どう返すのが正解なんだろうな。
今更そんなことを言われてなんて
答えればいいんだろう。
責めればいいの?擁護すればいい?
もう何をしたって帰ってこないのに)

「すみません。今日は帰っていただけ
ませんか」
まとまらない頭で出てきた言葉は
これだった。


(舞、1人で大丈夫かな。)
「雪希、雪希、大丈夫?」
「雪希くん?」
「あ、うん。大丈夫」

元日、僕は咲くんの家で竜ちゃんと
をゲームをしている。
でも集中はできていない。

「ずっと続くって思ってた」
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