虹色のバラが咲く場所は

263話 お正月

「アイドルは解散になっても、
たまに近況報告とかしてこの関係が
ずっと続くって疑わなかった」
「雪希、」
「舞と蓮の時だって、自分の時だって
時間はかかったけど一緒にいることが
できてる。きっと類の時も大丈夫って。絶対なんてどこにもないのに」

「雪希、」
「それに、類が死んだ事をさらっと
受け入れるちゃってさ。癖で類の分を
用意するとか、泣くとかなかったんだ。
悲しくて辛いはずなのに。
僕って冷たい人間なのかなー、なんて」

おどけて見せたら2人とも真顔だった。
(真顔というか怒ってる?)

スマホの画面はゲームオーバーが点滅
していて、暗くなった。

「泣けないから冷たいなんてことは絶対にないよ、雪希」
「そうだよ、雪希くん。それに雪希くんが優しいこと、私たちは知ってる。
もちろん舞さんたちも」
「ごめん、ありがとう、2人とも」 
(僕には勿体無いくらいの存在。
この関係は自然消滅させたくないな)

一方その頃、高坂家。
「お兄ちゃん、今いい?」
ノックされた後に聞こえる茉里の声。
「どうぞ」

まず茉里は顔だけ出した。
「それ座っていい?」
「いいよ」
ドアを閉めて円座に座る。

「お兄ちゃん、今回は
どのくらいいるの?」
「年越しの前には帰るつもりだけど」

テーブルのクッキー缶に手を伸ばして
一つ食べた。
「お兄ちゃんたち、
本当にやめちゃうの?」
「あれをみたのか」
「うん、お兄ちゃんの居場所、
なんでしょ?」
「アイドルじゃなくなってもあそこが
俺の居場所なことには変わりない。
相談の時、雪希が発言はずっと先のことを考えてのことだった。なのに俺は目先のことだけで。最年長の俺より最年少の雪希の方が現実をみていた。
本当なら俺がしっかりしないと
いけなかったのに。」


「年上だからしっかりしないといけないって
なんで決めつけるの?それより年上でも年下でも
自分の意見をはっきり言えることの方が
しっかりしてるって私は思う。
どんなに仲が良くて付き合いが長くても
感じたものや感じ方、得たものは微妙に違うよ。
だから考えが違くて当たり前だよ」

諭すような言い方に茉里の成長を嬉しく感じた反面、
自分を恥ずかしく思った。
(妹にこんなこと言わせてどうする、俺!
でも、気づかせてくれた。こんな当たり前のことに。
俺は俺なんだ。自分にできることはやる。
最後くらいカッコつけたい
あの2人に頼ってもらえるように)
マグカップの残りわずかなコーヒーを飲み込んだ。

夕方、翔に電話をしようか迷ったが確実に迷惑になるからやめた。
(私はどうしたいんだろう)
ー死ぬことはなかった!ー

(なんで颯太さんは言ったんだろう。
小さい頃の記憶なんて大きくなったらうろ覚えかもしれないのに。
颯太さんは私が覚えてるって思ったのかな。
謝った先は?許されたかった?

でもずっと苦しかったら。
自分をずっと責めていたら。
私が許していたら颯太さんはほんの少し楽になったのかな)

夕飯はお雑煮と残しておいたおせち料理数品。
「朝にいうの忘れちゃった。
あけましておめでとう、類。
今年は空からよろしく」
呟きに返事はない。
(あったらそれはそれで怖い)

夕飯を済ませてお風呂に入り寝る支度ができた時、
電話が入った。
翔からだ。
(都合がいいんだか悪いんだか。
きっと「あけましておめでとう!
今年もよろしく!」
って出た途端元気に言うんだろうな)

「あけましておめでとう!
今年もよろしく!お年玉は通帳に送っといたから
後で確認して!3万円入ってるはずだから!」
(想像を遥かに変えてきた!というか)

「多い、多い。
高校生のお年玉ってだいだい一万でしょ?」
「誤差でしょ?」
(誤差なのか?)

「今、大丈夫?」
「うん、30分なら空いてるけど。
なに?寂しくなっちゃった?
いいよ。俺はいつでも舞の誘いなら」
「蒼葉颯太さんにあったの」
マシンガントークはピタリと止まった。





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