逆ハーレム戦隊 シャドウファイブ
11 もみの木接骨院
眩しい朝日とチュンチュン鳴く鳥の声で目が覚めた。カーテンが締まっているのでこんなに眩しいはずはないのにと思って身体を起こすと風景がいつもと違う。
「あれ? ここ、どこ?」
窓はすりガラスでカーテンはかかっていないが、私が寝ていたベッドの周りはパーテーションで囲まれている。
「えっと……」
昨日の記憶を辿りながら視線を胸元に落とすと、Vネックの白い薄手の大きなパジャマを着ていてブラジャーはつけていなかった。
「あっ! そうだっ! 昨日……」
スライミー怪人ジュニアを倒した後、私は何か薬を盛られ、メンバーみんなに介抱されて……。そして……。
「起きたようじゃな」
声がかかり、パーテーションからすっと小柄な老人が出てきた。豊かな白髪とハイネックの医療白衣を着た彼は足音もなくそばに近づいてくる。
「あ、あの、お医者さんですか?」
「ふぉっほっほ。まあそんなもんじゃな。しかしわしの専門は東洋医学じゃ。昨日飲んだ漢方はわしが調合したものじゃ」
「そうなんですか。ありがとうございました」
「いやいや。大変じゃったのう。ほれ、洗濯もしておいてやったぞ」
「えっ」
彼の手にはピンクシャドウのバトルスーツと着ていた服、そしてその上にアイボリーのブラジャーとショーツが乗っている。
「きゃ! や、やだあっ!」
ひったくる様に奪い私はそれらを抱きかかえた。
「ふぉっほっほお。こんなじじいに恥ずかしがることはないぞ」
おじいさんであろうが恥ずかしいものは恥ずかしい。ぼんやりしていた何となくの記憶がじわじわと蘇ってくる。
「や、やだ、私、き、昨日……」
硬直しているところへ緑丸さんがやってきた。やはり、このおじいさんと同じ白衣を着ている。
「桃香さん、よかった」
「あ、あの。助けてもらってありがとうございました」
「いや。そのへんは俺たちは反省している。危険な目に合わせてしまったから」
優しい眼差しは私を癒す。
「で、でも、あの、私を治してもらって……」
「ん……。あ、その、誤解しないように言っておくけど、君の身体にその」
私も緑丸さんの言いたいことがわかるし、言い辛いこともわかる。二人で沈黙していると、その空気を打ち破る様におじいさんが入ってくる。
「ふぉっほっほっ。心配せんでええ。誰もあんたとやってないからな」
「!」
「じいちゃん!」
「大事なことははっきり二回言わんとな。誰もやっとらん」
「あ、はい。それは、わかってます」
「桃香さん……」
意識を失う前に緑丸さんの逞しい身体に包み込まれたのが最後の記憶だった。
「わしなら、やっとるがのお!」
「!」
「じいちゃんっ!」
「お前らのやることは時間がかかりすぎておる。一発やって中から発散させてやれば、もっと楽に体力も使わんですんだのに」
「じいちゃん、そういうわけにはいかないよ。桃香さんの気持ちがないのにそんな行為をしたら。おまけに彼女はみんなのピンクなんだから」
「つまらん倫理を持ちおって。気持ち良ければいいじゃろうが。おまけに後から気持ちも付いてくるもんじゃって。ふぉっふぉお。」
「そんな乱暴な」
「……」
確かに5人のメンバーみんなのことがとても魅力的だと思う。でも誰かを特別今好きだとは思っていないし、彼らだって私をそういう風に見てくれているわけではないと思う。だけど、おじいさんの言う通り、昨日、もし誰かが私を抱いていたら。抱かれていたら。きっとその人を好きになってしまう気がする。
「とにかく俺たちはメンバーの彼女に不埒な真似は絶対にしない」
「そおかあ? じゃあわしの彼女にしちゃおうかな。ばあさんも死んでもう20年以上だし、さみしいわい」
「もう、じいちゃんはあっち行ってくれ」
「へーいへい。じゃあまたの」
「あ、ありがとうございました」
おじいさんが去ると緑丸さんが私の隣に腰かけて、脈を測った。
「うん、もう大丈夫。おそらく後遺症もないはずだから安心して」
「そうですか。よかった」
「それでも心配は心配だから今日からはここを手伝ってもらうよ」
「わかりました。お掃除から始めましょうか?」
「ああ、まだ急がなくていいよ」
「あ、はい」
立ち上がろうとした私の肩にそっと手を置き、緑丸さんは優しく笑む。落ち着いていてしっとりとしていてこの人の側に居ると本当に落ち着く。
「ここは、おじいさんと経営されているんですか?」
「うん。両親は普通に勤めていてね。俺が帰ってきて、一緒にやり始めたんだ」
「へえー。緑丸さんは武器を使わないで体術で倒すし、身体のスペシャリストですね! あっ……」
そう言った瞬間、私は昨晩、身体中のツボを押され、マッサージされたとことを思い出した。しかも全裸だった。顔が熱い。きっと赤面しているのが緑丸さんにもわかるはず。
「ああ、そうだね。桃香さん、あの、いやらしい意味ではなくて、いい身体してるよ。気の流れも良くて。とても健康的だ」
「あ、ありがとうございます」
「ん。ここでじいちゃんからハンドマッサージでも習うといいよ。役に立つから」
「はい」
「じゃあ、起きれそうなら起きておいで、じいいちゃんが君を気に入ったみたいで中華粥作ってたよ。ここでてすぐ右手にスタッフルームあるからそこにおいで」
「え、あ、何から何までありがとうございます」
私が頭を下げ上げると、緑丸さんはちらっと一瞥して慌てて目を逸らして出て行った。
「ん?」
どうしたのかなと思いながら着替えようと、服をつかむとパジャマのボタンが外れていて胸が丸見えだった。
「ぎゃっ!」
しかも良く見ると身体中にうっすらと赤くなった箇所がある。あざになるほどではないが、特に胸の周りとビキニライン、そして太腿周りと
お尻についている。
「これって……」
恐らくメンバーみんなのキスマークだ。これからどういう顔してみんなに会えばいいんだろう。しかし現実には空腹でおじいさんの中華粥が食べたいと思っていた。
着替えてベッドを下り、パーテーションの外に出ると、他にも空っぽのベッドと、タイマーとコードとパッド状のものが備わった大きなボックスがある。治療器具だろうか。壁にかかっているシンプルな時計は8時を指している。診療時間は9時からのようでまだ誰もいないようだった。右奥に目をやると、スタッフルームとドアに書かれてるのを見つけた。コンコンとノックすると「お入り」とさっきのおじいさんの声が聞こえたので入る。
「失礼します」
「こっちじゃ」
二人掛けのテーブルにおじいさんが居て、手招きしている。
「そこにお座り」
「はい」
私が腰を掛けるとおじいさんは立ち上がり、そしてすぐお盆を持ってやってきた。目の前にコトリとどんぶりが置かれ、ふわっと海鮮のいい匂いがした。
「いい匂い」
「そうじゃろう、そうじゃろう。干し貝柱でだしを取ってあるからの。熱いから気を付けてお食べ」
「ありがとうございます。いただきます」
中を見ると白い粥に赤いクコの実が乗っていて可愛い。木のスプーンでそっとすくい、ふーふー息をかけ口に運ぶと、粥は見た目のあっさりした雰囲気から、信じられないほど貝柱のダシがよくきいていて、こっくりとしている。
「ええー、すっごい、おいしい! こんな美味しいお粥初めてです!」
「ふぉっほっほ。慌てないでゆっくりな。おかわりもあるからな」
おじいさんは私が食べるのをずっと優しく、緑丸さんによく似た瞳で見守ってくれていた。もう一杯だけおかわりをすると今度はまた香りの高いお茶を出される。
「これも飲んでおくといい」
「ありがとうございます。これは何のお茶ですか?」
「わしがブレンドしたもんじゃ。身体にいいからの。精力も付く」
「え、 あ、そうですか。女性もやはり精をつけたほうがいいんでしょうか?」
「そりゃあ、もちろんじゃとも! お前さんがもうちょっと精力が強ければあの催淫剤なんぞ、自慰で何とかなったじゃろう」
「じ、じい?」
「そうじゃ、オナニーじゃ」
「えっと、私、したことないんですが……」
「なに!? 恥ずかしがらんでもええ」
「いえ、ほんとに……」
自慰行為って女性はするのだろうか。自分でしたくなったこともない。友達は彼氏とのえっちの話はよく教えてくるが自慰行為の話は皆無だった。
「うーん。淡白じゃのう。じゃあ、何か? 彼氏と毎日やり放題か」
「えっ!? 毎日? 毎月とかじゃないですか? 多かったとしても」
「ふぉっ? 月一? そりゃマンネリ夫婦の事か?」
どうもおじいさんと私の話は噛み合わない。今までお付き合いした人たちは、自分もそうだけど草食の部類なのかあんまり肉体関係の頻度は高くなかった。それで不満に感じたこともない。
「うーむ。時代かのう」
「そうですねえ。あまり欲求がわきませんねえ」
「わしなんか、お前さんが昨日あんまり喘ぐもんで、久しぶりに自分で抜いたわい」
「え? 抜いた? 何をです?」
「ふぉっほっほ! それを言わせるのか? ふぉっふぉお」
何を言っているのか、ちょっと分からず困っているところへ緑丸さんがやってきた。
「じいちゃん、いい加減にしてくれ。桃香さんを困らせないでくれるかな」
「ふぉっ? お前だって、他の若いもんだって、あの後――」
「あー! もうその話はなし!」
「?」
いつも穏やかで落ち着いた緑丸さんが、まるで子供のようでちょっと可愛いと思った。
「はいはい。じゃ、ハンドマッサージでも練習しようかの」
「はい。お願いします」
「俺はもう患者さんの施術してるから頼むよ」
「はいはい」
おじさんはふーっとため息をついて「あやつも生真面目で困る」と呟く。
「そうですか? 緑丸さんは紳士でとても素敵だと思います」
私の言葉に「そうか! そうか!」とおじいさんは顔を輝かせ始めた。
「よしよし。お前さんにしっかり教え込まないとな。今後の院とあやつのためにも」
「?」
こうしておじいさんにここでハンドマッサージと漢方の知識を与えられ、更に毎朝、太極拳を行うことになった。
「あれ? ここ、どこ?」
窓はすりガラスでカーテンはかかっていないが、私が寝ていたベッドの周りはパーテーションで囲まれている。
「えっと……」
昨日の記憶を辿りながら視線を胸元に落とすと、Vネックの白い薄手の大きなパジャマを着ていてブラジャーはつけていなかった。
「あっ! そうだっ! 昨日……」
スライミー怪人ジュニアを倒した後、私は何か薬を盛られ、メンバーみんなに介抱されて……。そして……。
「起きたようじゃな」
声がかかり、パーテーションからすっと小柄な老人が出てきた。豊かな白髪とハイネックの医療白衣を着た彼は足音もなくそばに近づいてくる。
「あ、あの、お医者さんですか?」
「ふぉっほっほ。まあそんなもんじゃな。しかしわしの専門は東洋医学じゃ。昨日飲んだ漢方はわしが調合したものじゃ」
「そうなんですか。ありがとうございました」
「いやいや。大変じゃったのう。ほれ、洗濯もしておいてやったぞ」
「えっ」
彼の手にはピンクシャドウのバトルスーツと着ていた服、そしてその上にアイボリーのブラジャーとショーツが乗っている。
「きゃ! や、やだあっ!」
ひったくる様に奪い私はそれらを抱きかかえた。
「ふぉっほっほお。こんなじじいに恥ずかしがることはないぞ」
おじいさんであろうが恥ずかしいものは恥ずかしい。ぼんやりしていた何となくの記憶がじわじわと蘇ってくる。
「や、やだ、私、き、昨日……」
硬直しているところへ緑丸さんがやってきた。やはり、このおじいさんと同じ白衣を着ている。
「桃香さん、よかった」
「あ、あの。助けてもらってありがとうございました」
「いや。そのへんは俺たちは反省している。危険な目に合わせてしまったから」
優しい眼差しは私を癒す。
「で、でも、あの、私を治してもらって……」
「ん……。あ、その、誤解しないように言っておくけど、君の身体にその」
私も緑丸さんの言いたいことがわかるし、言い辛いこともわかる。二人で沈黙していると、その空気を打ち破る様におじいさんが入ってくる。
「ふぉっほっほっ。心配せんでええ。誰もあんたとやってないからな」
「!」
「じいちゃん!」
「大事なことははっきり二回言わんとな。誰もやっとらん」
「あ、はい。それは、わかってます」
「桃香さん……」
意識を失う前に緑丸さんの逞しい身体に包み込まれたのが最後の記憶だった。
「わしなら、やっとるがのお!」
「!」
「じいちゃんっ!」
「お前らのやることは時間がかかりすぎておる。一発やって中から発散させてやれば、もっと楽に体力も使わんですんだのに」
「じいちゃん、そういうわけにはいかないよ。桃香さんの気持ちがないのにそんな行為をしたら。おまけに彼女はみんなのピンクなんだから」
「つまらん倫理を持ちおって。気持ち良ければいいじゃろうが。おまけに後から気持ちも付いてくるもんじゃって。ふぉっふぉお。」
「そんな乱暴な」
「……」
確かに5人のメンバーみんなのことがとても魅力的だと思う。でも誰かを特別今好きだとは思っていないし、彼らだって私をそういう風に見てくれているわけではないと思う。だけど、おじいさんの言う通り、昨日、もし誰かが私を抱いていたら。抱かれていたら。きっとその人を好きになってしまう気がする。
「とにかく俺たちはメンバーの彼女に不埒な真似は絶対にしない」
「そおかあ? じゃあわしの彼女にしちゃおうかな。ばあさんも死んでもう20年以上だし、さみしいわい」
「もう、じいちゃんはあっち行ってくれ」
「へーいへい。じゃあまたの」
「あ、ありがとうございました」
おじいさんが去ると緑丸さんが私の隣に腰かけて、脈を測った。
「うん、もう大丈夫。おそらく後遺症もないはずだから安心して」
「そうですか。よかった」
「それでも心配は心配だから今日からはここを手伝ってもらうよ」
「わかりました。お掃除から始めましょうか?」
「ああ、まだ急がなくていいよ」
「あ、はい」
立ち上がろうとした私の肩にそっと手を置き、緑丸さんは優しく笑む。落ち着いていてしっとりとしていてこの人の側に居ると本当に落ち着く。
「ここは、おじいさんと経営されているんですか?」
「うん。両親は普通に勤めていてね。俺が帰ってきて、一緒にやり始めたんだ」
「へえー。緑丸さんは武器を使わないで体術で倒すし、身体のスペシャリストですね! あっ……」
そう言った瞬間、私は昨晩、身体中のツボを押され、マッサージされたとことを思い出した。しかも全裸だった。顔が熱い。きっと赤面しているのが緑丸さんにもわかるはず。
「ああ、そうだね。桃香さん、あの、いやらしい意味ではなくて、いい身体してるよ。気の流れも良くて。とても健康的だ」
「あ、ありがとうございます」
「ん。ここでじいちゃんからハンドマッサージでも習うといいよ。役に立つから」
「はい」
「じゃあ、起きれそうなら起きておいで、じいいちゃんが君を気に入ったみたいで中華粥作ってたよ。ここでてすぐ右手にスタッフルームあるからそこにおいで」
「え、あ、何から何までありがとうございます」
私が頭を下げ上げると、緑丸さんはちらっと一瞥して慌てて目を逸らして出て行った。
「ん?」
どうしたのかなと思いながら着替えようと、服をつかむとパジャマのボタンが外れていて胸が丸見えだった。
「ぎゃっ!」
しかも良く見ると身体中にうっすらと赤くなった箇所がある。あざになるほどではないが、特に胸の周りとビキニライン、そして太腿周りと
お尻についている。
「これって……」
恐らくメンバーみんなのキスマークだ。これからどういう顔してみんなに会えばいいんだろう。しかし現実には空腹でおじいさんの中華粥が食べたいと思っていた。
着替えてベッドを下り、パーテーションの外に出ると、他にも空っぽのベッドと、タイマーとコードとパッド状のものが備わった大きなボックスがある。治療器具だろうか。壁にかかっているシンプルな時計は8時を指している。診療時間は9時からのようでまだ誰もいないようだった。右奥に目をやると、スタッフルームとドアに書かれてるのを見つけた。コンコンとノックすると「お入り」とさっきのおじいさんの声が聞こえたので入る。
「失礼します」
「こっちじゃ」
二人掛けのテーブルにおじいさんが居て、手招きしている。
「そこにお座り」
「はい」
私が腰を掛けるとおじいさんは立ち上がり、そしてすぐお盆を持ってやってきた。目の前にコトリとどんぶりが置かれ、ふわっと海鮮のいい匂いがした。
「いい匂い」
「そうじゃろう、そうじゃろう。干し貝柱でだしを取ってあるからの。熱いから気を付けてお食べ」
「ありがとうございます。いただきます」
中を見ると白い粥に赤いクコの実が乗っていて可愛い。木のスプーンでそっとすくい、ふーふー息をかけ口に運ぶと、粥は見た目のあっさりした雰囲気から、信じられないほど貝柱のダシがよくきいていて、こっくりとしている。
「ええー、すっごい、おいしい! こんな美味しいお粥初めてです!」
「ふぉっほっほ。慌てないでゆっくりな。おかわりもあるからな」
おじいさんは私が食べるのをずっと優しく、緑丸さんによく似た瞳で見守ってくれていた。もう一杯だけおかわりをすると今度はまた香りの高いお茶を出される。
「これも飲んでおくといい」
「ありがとうございます。これは何のお茶ですか?」
「わしがブレンドしたもんじゃ。身体にいいからの。精力も付く」
「え、 あ、そうですか。女性もやはり精をつけたほうがいいんでしょうか?」
「そりゃあ、もちろんじゃとも! お前さんがもうちょっと精力が強ければあの催淫剤なんぞ、自慰で何とかなったじゃろう」
「じ、じい?」
「そうじゃ、オナニーじゃ」
「えっと、私、したことないんですが……」
「なに!? 恥ずかしがらんでもええ」
「いえ、ほんとに……」
自慰行為って女性はするのだろうか。自分でしたくなったこともない。友達は彼氏とのえっちの話はよく教えてくるが自慰行為の話は皆無だった。
「うーん。淡白じゃのう。じゃあ、何か? 彼氏と毎日やり放題か」
「えっ!? 毎日? 毎月とかじゃないですか? 多かったとしても」
「ふぉっ? 月一? そりゃマンネリ夫婦の事か?」
どうもおじいさんと私の話は噛み合わない。今までお付き合いした人たちは、自分もそうだけど草食の部類なのかあんまり肉体関係の頻度は高くなかった。それで不満に感じたこともない。
「うーむ。時代かのう」
「そうですねえ。あまり欲求がわきませんねえ」
「わしなんか、お前さんが昨日あんまり喘ぐもんで、久しぶりに自分で抜いたわい」
「え? 抜いた? 何をです?」
「ふぉっほっほ! それを言わせるのか? ふぉっふぉお」
何を言っているのか、ちょっと分からず困っているところへ緑丸さんがやってきた。
「じいちゃん、いい加減にしてくれ。桃香さんを困らせないでくれるかな」
「ふぉっ? お前だって、他の若いもんだって、あの後――」
「あー! もうその話はなし!」
「?」
いつも穏やかで落ち着いた緑丸さんが、まるで子供のようでちょっと可愛いと思った。
「はいはい。じゃ、ハンドマッサージでも練習しようかの」
「はい。お願いします」
「俺はもう患者さんの施術してるから頼むよ」
「はいはい」
おじさんはふーっとため息をついて「あやつも生真面目で困る」と呟く。
「そうですか? 緑丸さんは紳士でとても素敵だと思います」
私の言葉に「そうか! そうか!」とおじいさんは顔を輝かせ始めた。
「よしよし。お前さんにしっかり教え込まないとな。今後の院とあやつのためにも」
「?」
こうしておじいさんにここでハンドマッサージと漢方の知識を与えられ、更に毎朝、太極拳を行うことになった。