逆ハーレム戦隊 シャドウファイブ
13 ブラックシャドウのアジト
夜に青音さんのお店、『アンティークショップ・紺碧』にてシャドウファイブの会議が行われた。相変わらずメンバーたちは青音さんの出す、お茶に舌鼓を打っている。
「なかなかまろやかだな」
「今日のは玉露だ」
最近は緑丸さんのおじいさんに漢方をブレンドしたお茶をもらって飲んでいたので、久しぶりに飲む緑茶はまた格別で、日本人はやっぱり緑茶かなあと思った。
メンバーが揃ったところで赤斗さんがホワイトボードにこのあたりの地図を張り、怪人が現れたところに印をつけて説明を始める。
「これらの出現したところを囲むと――」
私はきっとドラマのように「犯人はこの中にいる!」とマジックで印のあたりを円で囲むだろうとワクワクして眺めた。
「この廃墟だな」
「えー?」
「ん? 桃香ちゃん、何か意見がある?」
「あ、いえ……」
赤斗さんは出現ポイントを円で囲まず、対面を線で結んで全部が重なったところを指さした。
「そこってさあ、俺らの子供の頃の基地じゃん」
白亜さんが懐かしそうに言う。メンバーたちもまた感慨深いような表情で口々に子供の頃の思い出を話し始める。
「懐かしいな。ここで技の開発したりとかさあ」
「うん。なんでもここに持ち込んでいたよな」
それでもある人物の名前が上がると言葉少なになった。
「黒彦ってば魔法使おうとしてたよなー」
「ああ、辞書片手にな」
「だったな……」
彼らのメンバーであり、リーダー格であった黒彦さんという人の存在はとても大きいようだ。みんな静かになってまたお茶を啜る。
「で、今度調査に行こうと思う。段々、怪人の現れる周期が微妙に短くなってるから急ぎたい」
「そうだな」
「次の商店街が休みの時にでも行くか」
「そうしよう」
話が決まったので解散になるが、黄雅さんと白亜さんは黄雅さんのお店、『レモントイズ』の地下に行き武器のメンテナンスと練習をするようだ。
黄雅さんが「桃ちゃん、シールドの練習しておく?」と聞いてきたので私は頷いた。
「じゃ、俺が相手するから」
「ありがとうございます」
みんなについて行こうと立ちあがると、赤斗さんが「待って」と引き留める。
「なんでしょう」
「明後日からはうちにきてくれるかな」
「ああ、そうですね。私で良ければ」
「うん、すごく助かる」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあね」
緑丸さんも立ち上がり「またうちにもきて」と優しく微笑まれた。
「はい、是非」
「じいちゃんが楽しみにしてる」
「あ、おじいさんが」
ちょっと残念な言われ方だが、まあいいかと思っていると青音さんが「自分は省略しただけだ」と謎めいた雰囲気で一言言い店の奥に入っていった。
手を振る赤斗さんに頭を下げて、地下室へ向かう。
商店街はもう夜のお店になってきている。昼間、開いていた店は閉まり、バーやクラブ、パブなどの看板に灯がともる。
「夜と昼じゃ大違いだなあ」
まだ始まったばかりの夜のお店は静かだがそのうち、昼より雑多で騒がしくなっていくだろう。店の中に入っていく女の子たちも、温かい日中よりも薄着で、それでも楽しそうだ。
「笑っている人がいるっていい事だなあ」
町の平和を守り、昼も夜も安心して暮らせることがとても大事だとしみじみ思い、また平和を守るシャドウファイブの一員なのだと自負する。
「さて、シールド頑張ろう」
裏口から店に入り、地下室に行くとピシッっという音と、キンッという二種類の音が聞こえた。
音のする方に目をやると、黄雅さんが、白亜さんの投げつけるブーメランを鞭で器用に払っていた。
「こんばんは」
「やあ、きたね」
「じゃ、俺は桃と交代して補助するよ」
「頼む。鞭を払うようにサポートしてくれ」
「オッケー。じゃ、桃、こっちきてシールド出してみて」
「はい」
「あ、ちょっと待って」
黄雅さんが私の服装を眺めてうーんと唸る。
「服、脱いでバトルスーツだけのほうがいいか。もし服に鞭が当たると破けるよな」
「ああ、そうだな」
なるほど、バトルスーツに鞭が当たっても、ダメージがないけど服が破けると嫌なので、私は言われるままちょっと陰に行き脱いで戻る。
危ないのでマスクも被ることにした。
「じゃ、ここに立って、シールド出そうか」
「はい。シールド、オン!」
ヒュォーンと不思議な音を出しシールドが両手首に現れる。白亜さんは私の後ろに立ち、そのまま肘の上をつかみ私の手を操作する。
「いい? まず敵にシールド側を向けておくこと、ガードするってことが大事だからね」
「はいっ」
シールドを向けて腕を閉じると上半身の半分を守れる。
「黄雅、ここ狙ってみて」
「よし」
「桃はまずじっとして鞭を受けてみて」
「はい」
ぴしゃりと黄雅さんの鞭がシールドを打つ。
「すごい!」
「でしょ?」
「これはいいものだな」
バトルシーツに鞭を打たれても肉体にダメージはないが、このシールドは衝撃さえも感じない。つまりバトルスーツだけではダメージがなくても、押されたり、転んだり、飛ばされたりすることはあるだろう。しかしこのシールドを使えば衝撃を吸収するおかげで、そのままの体勢を維持することが可能だろう。
「俺たちにも作ってくれよ」
「ああ、また今度な。じゃちょっと動きをつけてみるか」
私は白亜さんにピッタリ身体を密着されたまま動かされ、黄雅さんの鞭を跳ね返す練習をする。
「ちょっと色々狙うよ」
「はい!」
頭、胸、腕などに飛んでくる鞭をシールドに当てる。
「上手い!」
「いいじゃん」
白亜さんのサポートがなくても打ち返すことが出来るようになった。
「じゃ、俺も攻撃側に入るか。加減するからね」
「はい!」
鞭とブーメランのダブル攻撃だ。一応素早さは配慮があるが、なんとか多方面からの攻撃にも防御できるようになった。
「いいね。今日はここまでにしよう」
「はいっ! ありがとうございました!」
「桃、送っていくよ」
「ありがとうございます」
「お疲れ」
「失礼します」
地下から上がり、商店街を白亜さんと一緒に並んで歩くと、あちこちのお店の女の子たちから声がかかる。
「やあーん、白くぅーん、そのこだあれぇ?」
「ハクさーん」
「彼女作ったのぉ?」
「こんどお店きてねえ」
気さくに白亜さんは手を振っている。やっぱりモテモテだ。女の子の中には私を睨む子もいる。
「あの、白亜さんは、というか、メンバーのみんなは恋人いないんですか?」
「ん? 前はみんないたよ。でもこっち帰ってくる前に別れたんだ」
「そうだったんですかあ」
「俺たちはずっと外国で勉強と仕事してて、付き合ってた子たちはみんな多国籍で、自我が強くてさ。帰国するって言うと『あっそう。残念ね』ってさ」
「は、はあ」
「みんなやることがあるからね。俺たちについてこようなんて考えなかったみたい」
「す、すごい……」
これだけ魅力的な人たちを前に、悩まずに仕事を選べるなんて凄すぎる。でも、それだけ男の人に振り回されない自分を持っているという事なんだなと思うと、またその人たちは尊敬の対象になった。
「そういえば誰も日本の女のこと付き合ったことがないんだよなあ。青音はアジア系好みだったけど」
「はあ……」
「帰国したら帰国したらでブラックシャドウが現れて、恋人どころじゃないしね」
「そうですね」
「でも、やっぱり同じ民族ってやっぱり安心するね」
すっと立ち止まって白亜さんは私を見つめる。
「桃みたいな子は、日本じゃ標準?」
「え? 標準って?」
手を伸ばして彼の指先は私の毛先をもてあそび始め、髪の毛をくるくると巻き付ける。そのくるくる円を描く指先が、耳たぶをさっとかすめる。
「んっ」
「日本の女の子はそんなに男をサポートして、黙って尽くしてくれるものなのかなって」
「えーっと、そういうつもりでないのですが」
「母親のようなそうでないような。でもとても心地よいよ。黙っててもわかってくれてるのかな、なんて思ったりしてさ」
「そ、そうですか」
シュルっと髪から指先をほどくようにして、白亜さんは手を下におろす。
「最初会った頃と、変わってきたね」
「かもしれませんね」
商店街をいつの間にか抜けていて、暗い道を歩いている。白亜さんがもっと顔を近くに寄せてきた。まさか、キスされるのかなと思わず期待して、ちょっとだけ顔をあげて薄眼をする。
「綺麗になった……」
く、くる?
「いい手触りだ、この髪。じゃまた。早く寝るんだよ」
「は、はい。ありがとうございました。おやすみなさい」
もう目の前には私の住んでいるアパートがあった。白亜さんの後姿が消えるまで私は見送ってから部屋に入った。
「なかなかまろやかだな」
「今日のは玉露だ」
最近は緑丸さんのおじいさんに漢方をブレンドしたお茶をもらって飲んでいたので、久しぶりに飲む緑茶はまた格別で、日本人はやっぱり緑茶かなあと思った。
メンバーが揃ったところで赤斗さんがホワイトボードにこのあたりの地図を張り、怪人が現れたところに印をつけて説明を始める。
「これらの出現したところを囲むと――」
私はきっとドラマのように「犯人はこの中にいる!」とマジックで印のあたりを円で囲むだろうとワクワクして眺めた。
「この廃墟だな」
「えー?」
「ん? 桃香ちゃん、何か意見がある?」
「あ、いえ……」
赤斗さんは出現ポイントを円で囲まず、対面を線で結んで全部が重なったところを指さした。
「そこってさあ、俺らの子供の頃の基地じゃん」
白亜さんが懐かしそうに言う。メンバーたちもまた感慨深いような表情で口々に子供の頃の思い出を話し始める。
「懐かしいな。ここで技の開発したりとかさあ」
「うん。なんでもここに持ち込んでいたよな」
それでもある人物の名前が上がると言葉少なになった。
「黒彦ってば魔法使おうとしてたよなー」
「ああ、辞書片手にな」
「だったな……」
彼らのメンバーであり、リーダー格であった黒彦さんという人の存在はとても大きいようだ。みんな静かになってまたお茶を啜る。
「で、今度調査に行こうと思う。段々、怪人の現れる周期が微妙に短くなってるから急ぎたい」
「そうだな」
「次の商店街が休みの時にでも行くか」
「そうしよう」
話が決まったので解散になるが、黄雅さんと白亜さんは黄雅さんのお店、『レモントイズ』の地下に行き武器のメンテナンスと練習をするようだ。
黄雅さんが「桃ちゃん、シールドの練習しておく?」と聞いてきたので私は頷いた。
「じゃ、俺が相手するから」
「ありがとうございます」
みんなについて行こうと立ちあがると、赤斗さんが「待って」と引き留める。
「なんでしょう」
「明後日からはうちにきてくれるかな」
「ああ、そうですね。私で良ければ」
「うん、すごく助かる」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあね」
緑丸さんも立ち上がり「またうちにもきて」と優しく微笑まれた。
「はい、是非」
「じいちゃんが楽しみにしてる」
「あ、おじいさんが」
ちょっと残念な言われ方だが、まあいいかと思っていると青音さんが「自分は省略しただけだ」と謎めいた雰囲気で一言言い店の奥に入っていった。
手を振る赤斗さんに頭を下げて、地下室へ向かう。
商店街はもう夜のお店になってきている。昼間、開いていた店は閉まり、バーやクラブ、パブなどの看板に灯がともる。
「夜と昼じゃ大違いだなあ」
まだ始まったばかりの夜のお店は静かだがそのうち、昼より雑多で騒がしくなっていくだろう。店の中に入っていく女の子たちも、温かい日中よりも薄着で、それでも楽しそうだ。
「笑っている人がいるっていい事だなあ」
町の平和を守り、昼も夜も安心して暮らせることがとても大事だとしみじみ思い、また平和を守るシャドウファイブの一員なのだと自負する。
「さて、シールド頑張ろう」
裏口から店に入り、地下室に行くとピシッっという音と、キンッという二種類の音が聞こえた。
音のする方に目をやると、黄雅さんが、白亜さんの投げつけるブーメランを鞭で器用に払っていた。
「こんばんは」
「やあ、きたね」
「じゃ、俺は桃と交代して補助するよ」
「頼む。鞭を払うようにサポートしてくれ」
「オッケー。じゃ、桃、こっちきてシールド出してみて」
「はい」
「あ、ちょっと待って」
黄雅さんが私の服装を眺めてうーんと唸る。
「服、脱いでバトルスーツだけのほうがいいか。もし服に鞭が当たると破けるよな」
「ああ、そうだな」
なるほど、バトルスーツに鞭が当たっても、ダメージがないけど服が破けると嫌なので、私は言われるままちょっと陰に行き脱いで戻る。
危ないのでマスクも被ることにした。
「じゃ、ここに立って、シールド出そうか」
「はい。シールド、オン!」
ヒュォーンと不思議な音を出しシールドが両手首に現れる。白亜さんは私の後ろに立ち、そのまま肘の上をつかみ私の手を操作する。
「いい? まず敵にシールド側を向けておくこと、ガードするってことが大事だからね」
「はいっ」
シールドを向けて腕を閉じると上半身の半分を守れる。
「黄雅、ここ狙ってみて」
「よし」
「桃はまずじっとして鞭を受けてみて」
「はい」
ぴしゃりと黄雅さんの鞭がシールドを打つ。
「すごい!」
「でしょ?」
「これはいいものだな」
バトルシーツに鞭を打たれても肉体にダメージはないが、このシールドは衝撃さえも感じない。つまりバトルスーツだけではダメージがなくても、押されたり、転んだり、飛ばされたりすることはあるだろう。しかしこのシールドを使えば衝撃を吸収するおかげで、そのままの体勢を維持することが可能だろう。
「俺たちにも作ってくれよ」
「ああ、また今度な。じゃちょっと動きをつけてみるか」
私は白亜さんにピッタリ身体を密着されたまま動かされ、黄雅さんの鞭を跳ね返す練習をする。
「ちょっと色々狙うよ」
「はい!」
頭、胸、腕などに飛んでくる鞭をシールドに当てる。
「上手い!」
「いいじゃん」
白亜さんのサポートがなくても打ち返すことが出来るようになった。
「じゃ、俺も攻撃側に入るか。加減するからね」
「はい!」
鞭とブーメランのダブル攻撃だ。一応素早さは配慮があるが、なんとか多方面からの攻撃にも防御できるようになった。
「いいね。今日はここまでにしよう」
「はいっ! ありがとうございました!」
「桃、送っていくよ」
「ありがとうございます」
「お疲れ」
「失礼します」
地下から上がり、商店街を白亜さんと一緒に並んで歩くと、あちこちのお店の女の子たちから声がかかる。
「やあーん、白くぅーん、そのこだあれぇ?」
「ハクさーん」
「彼女作ったのぉ?」
「こんどお店きてねえ」
気さくに白亜さんは手を振っている。やっぱりモテモテだ。女の子の中には私を睨む子もいる。
「あの、白亜さんは、というか、メンバーのみんなは恋人いないんですか?」
「ん? 前はみんないたよ。でもこっち帰ってくる前に別れたんだ」
「そうだったんですかあ」
「俺たちはずっと外国で勉強と仕事してて、付き合ってた子たちはみんな多国籍で、自我が強くてさ。帰国するって言うと『あっそう。残念ね』ってさ」
「は、はあ」
「みんなやることがあるからね。俺たちについてこようなんて考えなかったみたい」
「す、すごい……」
これだけ魅力的な人たちを前に、悩まずに仕事を選べるなんて凄すぎる。でも、それだけ男の人に振り回されない自分を持っているという事なんだなと思うと、またその人たちは尊敬の対象になった。
「そういえば誰も日本の女のこと付き合ったことがないんだよなあ。青音はアジア系好みだったけど」
「はあ……」
「帰国したら帰国したらでブラックシャドウが現れて、恋人どころじゃないしね」
「そうですね」
「でも、やっぱり同じ民族ってやっぱり安心するね」
すっと立ち止まって白亜さんは私を見つめる。
「桃みたいな子は、日本じゃ標準?」
「え? 標準って?」
手を伸ばして彼の指先は私の毛先をもてあそび始め、髪の毛をくるくると巻き付ける。そのくるくる円を描く指先が、耳たぶをさっとかすめる。
「んっ」
「日本の女の子はそんなに男をサポートして、黙って尽くしてくれるものなのかなって」
「えーっと、そういうつもりでないのですが」
「母親のようなそうでないような。でもとても心地よいよ。黙っててもわかってくれてるのかな、なんて思ったりしてさ」
「そ、そうですか」
シュルっと髪から指先をほどくようにして、白亜さんは手を下におろす。
「最初会った頃と、変わってきたね」
「かもしれませんね」
商店街をいつの間にか抜けていて、暗い道を歩いている。白亜さんがもっと顔を近くに寄せてきた。まさか、キスされるのかなと思わず期待して、ちょっとだけ顔をあげて薄眼をする。
「綺麗になった……」
く、くる?
「いい手触りだ、この髪。じゃまた。早く寝るんだよ」
「は、はい。ありがとうございました。おやすみなさい」
もう目の前には私の住んでいるアパートがあった。白亜さんの後姿が消えるまで私は見送ってから部屋に入った。