逆ハーレム戦隊 シャドウファイブ
7 再会
ピンクシャドウの戦闘スーツが青音さんにより、リニューアルした。
「一応確認してみて」
和室で着替えさせてもらう。下半身にひらひらと短いスカートが付けられ、これなら下着のラインが出ないと安心していると「どう?」と声ががかるので「いい感じです」と答えた。
「どれどれ」
青音さんがスッと部屋に入って来、下から上まで一瞥する。こんなにじろじろ見られるなんて生まれて初めてだ。まるで骨董品を鑑定するようにジィーっと細部まで見られている。
「まあ、これなら活動の邪魔になることもないし、上に服を着ても平気だろう」
「このスーツって青音さんが作ったんですか?」
「ああ。デザインは黄雅と白亜だが」
「へええー、すごい。何でも出来るんですねえ」
「家の手伝いの結果だよ」
彼のお母さんの桂子さんが、和裁士でアンティーク着物の修復も行い、それを子供のころから手伝ってきた青音さんは裁縫も得意らしい。また骨董の審美眼を磨くためには感情的になってはいけない、ということで冷静さが身についたらしい。
「羨ましいです。私は特技が何もないから」
「フッ。もうシャンプーが得意だろう? そのうち特技だらけになる」
「え、そう、ですね!」
クールな彼に優しくされるととても嬉しく感じるし自信もわいてくる。今日もいっぱい知識と教養を身に着けたいなと思っている。
品物の査定をして、掃除をし、アンティーク着物の整頓をする。たたみ方なんかまったく知らなかったが、やっと綺麗に畳むことが出来るようになり、また一つできることが増えたと嬉しくなった。陶器も着物も楽器もとても手触りが良いことに気づいた。
「青音さん、これもすごくいいものなんですか?」
私は小さな白いコップをそっと手に持つ。ふわっと軽くて冷たいはずなのに温かく感じる。
「ああ、そんなに古いものではないけどいい作風だね。たぶん名匠が修業時代に作ったものだと僕は睨んでいる。ほら口当たりもいいだろう」
私の手からそっとコップを取り、青音さんはそっと口づけるように口辺に唇を触れさせる。まるで恋人にキスでもしているかのようだ。
「ほら」
その口づけたところを彼は私の唇にも当てさせる。こ、これは間接キスではないだろうか。
「あ、は、はあっ、や、優しい口当たりです、ね」
「うん。知識も大事だけどこうやって感じることも大事だ」
見つめられながらコップに口づけていると彼とキスしているような錯覚を覚えめまいがする。
「あ、こ、これ私、買ってもいいですか?」
「ん? 気に入った? じゃ、あげるよ」
「え、いえ、ちゃんと買います」
「いや、名前がないせいで、いいものだけど売れないんだ。ボーナス」
「そうなんですかあ」
「大事にされる人のところへ行って欲しいからね」
こうして私は毎日このコップで飲み物を飲む度に青音さんを意識するようになってしまった。
しばらく怪人の出現はないが、夜のパトロールに行くことになった。私は青音さんと一緒に近隣を回る。このパトロールは、シャドウファイブのバイクに乗らず青音さんの車に乗って普段着なのでまるでドライブデートのような気持ちになってしまう。ただ箱型の車はお店の商用車なので段ボールが何個か乗っていてガタガタうるさく、あまりムードはなかった。
「ん? あそこで何か揉めているな」
「どこですか?」
相変わらず鋭く目がいい青音さんの目線を懸命に追っていると、歩道で若い女の子が酔っ払いに絡まれているのが見えた。
「怪人じゃないけど……」
「あ、あのこ……」
私の後輩の吉田麻衣だった。もう過去のこととはいえ元カレの事を思い出すと胸が苦しい。
「まあ放っておいても平気かな」
「あ、待ってください」
「ん? 助ける?」
「……」
どうしよう。酔っ払いのおじさんに手をつかまれ彼女は半泣きだ。しかし1人でこんな夜道に何をしているんだろう。中村達矢は何をしているんだろう。
「前に話したことあると思うんですけど、あの娘があの、その」
「ああ、彼を取った子」
「はい……」
「桃香の好きにしたらいい」
彼女の事を許せないと思うから、このまま嫌な思いをすればいいと思ってしまう反面、あの酔っ払いに怒りがわく。
「私、行ってきます!」
「ん。後ろの座席でピンクシャドウになってから行けばいい」
「はい!」
私はさっと後部座席に行き、服を脱いでピンクシャドウの姿になり首のポケットに入っているマスクを取り出しかぶる。
「行ってきます!」
車の陰からさっと二人の前に登場する。
「ピンクシャドウ見参!」
「ピンクシャドウっ!」
吉田麻衣は顔を明るくさせ、酔っ払いの手を振り切り、私の駆け寄り後ろに寄り添った。
酔っ払いの男が「ええー? ピンクシャドウ?」とふらつく足で近づいてくる。どうしよう。勢いよく飛び出たはいいが私には戦闘力はまるでなかったのだ。吉田麻衣は後ろでガタガタ震えている。私は思い切って大きな声で酔っ払いを叱ってみることにした。
「あなた! そんなに酔っぱらって何をしているんですか! 痴漢になりますよ!」
「ええ~? 痴漢~? ちげーよちげーよぉ。おねえちゃんとお話ししたかっただけ~」
男は真っ赤な顔でふらついているが、恰好を良く見るときちんとしたスーツにアタッシュケースを持っている。仕事帰りのサラリーマンだろうか。
「それでも飲み過ぎですよ! 早く家に帰りなさい!」
「ええ~? そんなに飲んでないってぇ」
「うっ、お酒臭い!」
男は顔を近づけ臭気をまき散らす。それでも負けじと私は対峙する。
「とにかく、これ以上この女性に絡むと警察を呼びますよ!」
「ひえぃっ、け、警察は、ごかんべん! 帰りまーすー帰りまーす」
男はふらついた足でそそくさと去って行った。よかった。この程度のやり取りで済んで。ほっとしていると後ろの吉田麻衣が泣きながら「ありがとう、ピンクシャドウ」と頭を下げる。
「あなた。こんな夜に一人でうろついてはダメよ。怪人だって出るんだから」
「は、はい、いつもは出歩かないんですけど、彼が彼が」
「え? 彼が?」
達也がどうかしたのだろうか。
「彼のうちに行ったら、なんか熱出してて、風邪引いたぽくって、冷蔵庫見たら何にもなくて、だから、あたし、コンビニに行ってなんか買ってこようと思って」
「そっか」
道端にコンビニの大きな袋が転がっていた。中にはスポーツ飲料やら、ドリンク剤やら果物なんかが入っている。それを私は拾って彼女に手渡した。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
麻衣は何度も頭を下げる。
「いいの、そんなに頭を下げなくても」
「いえ、ほんと、嬉しかった。今の彼と付き合うようになってあたし、職場の先輩とかに無視されて……。女の人に優しくしてもらうの久しぶりなんです」
「……」
どうやら私と中村達矢が付き合っていたことを知っていた先輩が私の退職後、吉田麻衣を略奪した女だと冷たく接していたようだ。彼女が辛い思いをしたことを聞いても、あまり胸がスカッとすることはなかった。ピンクシャドウになる前なら、いい気味だと思ったかもしれない。でも今は、シャドウファイブの平和を守りたい気持ちがうつってきているのか、誰かが辛い思いをするのは嫌だなと思う。
「あ、は、はやく帰らなきゃ。きっと熱が上がってる!」
「平気?」
「はい。もうそこのアパートだから」
「ん」
「ありがとうございました! さよなら!」
急いでかけていく吉田麻衣の後姿を見つめる。なんだか本当に終わったなあと感じて車に戻った。
「戻りました」
「おつかれさま。撃退ちゃんとできたな」
「ええ、なんとか」
「今日はもう帰ろう。家まで送るよ」
「はい」
助手席に乗りふっと青音さんの方に目をやると、首元にブルーシャドウのマスクが出ていた。あれっと思ってハッとする。きっと青音さんは私を見守ってくれていて、何かあれば出動しようとしていてくれたのだ。素っ気ないのに優しい。もう一人でぼんやりしているときに元カレの事を思い出すことはないだろう。恋心を占めていた達也の存在は消えていく。次に彼らにあっても動揺しない。そしてこれからここに、新しい恋が入ってくるのかもしれないと、私はまた希望に胸を膨らませた。
「一応確認してみて」
和室で着替えさせてもらう。下半身にひらひらと短いスカートが付けられ、これなら下着のラインが出ないと安心していると「どう?」と声ががかるので「いい感じです」と答えた。
「どれどれ」
青音さんがスッと部屋に入って来、下から上まで一瞥する。こんなにじろじろ見られるなんて生まれて初めてだ。まるで骨董品を鑑定するようにジィーっと細部まで見られている。
「まあ、これなら活動の邪魔になることもないし、上に服を着ても平気だろう」
「このスーツって青音さんが作ったんですか?」
「ああ。デザインは黄雅と白亜だが」
「へええー、すごい。何でも出来るんですねえ」
「家の手伝いの結果だよ」
彼のお母さんの桂子さんが、和裁士でアンティーク着物の修復も行い、それを子供のころから手伝ってきた青音さんは裁縫も得意らしい。また骨董の審美眼を磨くためには感情的になってはいけない、ということで冷静さが身についたらしい。
「羨ましいです。私は特技が何もないから」
「フッ。もうシャンプーが得意だろう? そのうち特技だらけになる」
「え、そう、ですね!」
クールな彼に優しくされるととても嬉しく感じるし自信もわいてくる。今日もいっぱい知識と教養を身に着けたいなと思っている。
品物の査定をして、掃除をし、アンティーク着物の整頓をする。たたみ方なんかまったく知らなかったが、やっと綺麗に畳むことが出来るようになり、また一つできることが増えたと嬉しくなった。陶器も着物も楽器もとても手触りが良いことに気づいた。
「青音さん、これもすごくいいものなんですか?」
私は小さな白いコップをそっと手に持つ。ふわっと軽くて冷たいはずなのに温かく感じる。
「ああ、そんなに古いものではないけどいい作風だね。たぶん名匠が修業時代に作ったものだと僕は睨んでいる。ほら口当たりもいいだろう」
私の手からそっとコップを取り、青音さんはそっと口づけるように口辺に唇を触れさせる。まるで恋人にキスでもしているかのようだ。
「ほら」
その口づけたところを彼は私の唇にも当てさせる。こ、これは間接キスではないだろうか。
「あ、は、はあっ、や、優しい口当たりです、ね」
「うん。知識も大事だけどこうやって感じることも大事だ」
見つめられながらコップに口づけていると彼とキスしているような錯覚を覚えめまいがする。
「あ、こ、これ私、買ってもいいですか?」
「ん? 気に入った? じゃ、あげるよ」
「え、いえ、ちゃんと買います」
「いや、名前がないせいで、いいものだけど売れないんだ。ボーナス」
「そうなんですかあ」
「大事にされる人のところへ行って欲しいからね」
こうして私は毎日このコップで飲み物を飲む度に青音さんを意識するようになってしまった。
しばらく怪人の出現はないが、夜のパトロールに行くことになった。私は青音さんと一緒に近隣を回る。このパトロールは、シャドウファイブのバイクに乗らず青音さんの車に乗って普段着なのでまるでドライブデートのような気持ちになってしまう。ただ箱型の車はお店の商用車なので段ボールが何個か乗っていてガタガタうるさく、あまりムードはなかった。
「ん? あそこで何か揉めているな」
「どこですか?」
相変わらず鋭く目がいい青音さんの目線を懸命に追っていると、歩道で若い女の子が酔っ払いに絡まれているのが見えた。
「怪人じゃないけど……」
「あ、あのこ……」
私の後輩の吉田麻衣だった。もう過去のこととはいえ元カレの事を思い出すと胸が苦しい。
「まあ放っておいても平気かな」
「あ、待ってください」
「ん? 助ける?」
「……」
どうしよう。酔っ払いのおじさんに手をつかまれ彼女は半泣きだ。しかし1人でこんな夜道に何をしているんだろう。中村達矢は何をしているんだろう。
「前に話したことあると思うんですけど、あの娘があの、その」
「ああ、彼を取った子」
「はい……」
「桃香の好きにしたらいい」
彼女の事を許せないと思うから、このまま嫌な思いをすればいいと思ってしまう反面、あの酔っ払いに怒りがわく。
「私、行ってきます!」
「ん。後ろの座席でピンクシャドウになってから行けばいい」
「はい!」
私はさっと後部座席に行き、服を脱いでピンクシャドウの姿になり首のポケットに入っているマスクを取り出しかぶる。
「行ってきます!」
車の陰からさっと二人の前に登場する。
「ピンクシャドウ見参!」
「ピンクシャドウっ!」
吉田麻衣は顔を明るくさせ、酔っ払いの手を振り切り、私の駆け寄り後ろに寄り添った。
酔っ払いの男が「ええー? ピンクシャドウ?」とふらつく足で近づいてくる。どうしよう。勢いよく飛び出たはいいが私には戦闘力はまるでなかったのだ。吉田麻衣は後ろでガタガタ震えている。私は思い切って大きな声で酔っ払いを叱ってみることにした。
「あなた! そんなに酔っぱらって何をしているんですか! 痴漢になりますよ!」
「ええ~? 痴漢~? ちげーよちげーよぉ。おねえちゃんとお話ししたかっただけ~」
男は真っ赤な顔でふらついているが、恰好を良く見るときちんとしたスーツにアタッシュケースを持っている。仕事帰りのサラリーマンだろうか。
「それでも飲み過ぎですよ! 早く家に帰りなさい!」
「ええ~? そんなに飲んでないってぇ」
「うっ、お酒臭い!」
男は顔を近づけ臭気をまき散らす。それでも負けじと私は対峙する。
「とにかく、これ以上この女性に絡むと警察を呼びますよ!」
「ひえぃっ、け、警察は、ごかんべん! 帰りまーすー帰りまーす」
男はふらついた足でそそくさと去って行った。よかった。この程度のやり取りで済んで。ほっとしていると後ろの吉田麻衣が泣きながら「ありがとう、ピンクシャドウ」と頭を下げる。
「あなた。こんな夜に一人でうろついてはダメよ。怪人だって出るんだから」
「は、はい、いつもは出歩かないんですけど、彼が彼が」
「え? 彼が?」
達也がどうかしたのだろうか。
「彼のうちに行ったら、なんか熱出してて、風邪引いたぽくって、冷蔵庫見たら何にもなくて、だから、あたし、コンビニに行ってなんか買ってこようと思って」
「そっか」
道端にコンビニの大きな袋が転がっていた。中にはスポーツ飲料やら、ドリンク剤やら果物なんかが入っている。それを私は拾って彼女に手渡した。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
麻衣は何度も頭を下げる。
「いいの、そんなに頭を下げなくても」
「いえ、ほんと、嬉しかった。今の彼と付き合うようになってあたし、職場の先輩とかに無視されて……。女の人に優しくしてもらうの久しぶりなんです」
「……」
どうやら私と中村達矢が付き合っていたことを知っていた先輩が私の退職後、吉田麻衣を略奪した女だと冷たく接していたようだ。彼女が辛い思いをしたことを聞いても、あまり胸がスカッとすることはなかった。ピンクシャドウになる前なら、いい気味だと思ったかもしれない。でも今は、シャドウファイブの平和を守りたい気持ちがうつってきているのか、誰かが辛い思いをするのは嫌だなと思う。
「あ、は、はやく帰らなきゃ。きっと熱が上がってる!」
「平気?」
「はい。もうそこのアパートだから」
「ん」
「ありがとうございました! さよなら!」
急いでかけていく吉田麻衣の後姿を見つめる。なんだか本当に終わったなあと感じて車に戻った。
「戻りました」
「おつかれさま。撃退ちゃんとできたな」
「ええ、なんとか」
「今日はもう帰ろう。家まで送るよ」
「はい」
助手席に乗りふっと青音さんの方に目をやると、首元にブルーシャドウのマスクが出ていた。あれっと思ってハッとする。きっと青音さんは私を見守ってくれていて、何かあれば出動しようとしていてくれたのだ。素っ気ないのに優しい。もう一人でぼんやりしているときに元カレの事を思い出すことはないだろう。恋心を占めていた達也の存在は消えていく。次に彼らにあっても動揺しない。そしてこれからここに、新しい恋が入ってくるのかもしれないと、私はまた希望に胸を膨らませた。