年の差契約婚~お別れするはずが、冷徹御曹司の愛が溢れて離してくれません~


彼女との結婚。

同棲前には浮かれて家具を買いすぎたりしたが、同棲してからの彼女の表情を見て、このままではダメだと思う気持ちと、彼女を手放したくない気持ちがずっと心の中にあった。

眠い中出迎えてくれる彼女や、必ず「おやすみなさい」と伝えてくるところ。
愛おしくて何度も包み込んでしまいたくなった。

でもその度に俺は目を逸らしてきた。

彼女は俺に好意があるわけではない。
そんなこと急にされても戸惑うだけだ。

必死に感情を閉じ込めて、彼女を見ないようにしていたら当然だが彼女との関係は一歩も前に進むことは無かった。

この形を夫婦と呼ぶのだろうか。
もちろん、沙織がこの形で満足しているならそれでいい。

でも彼女は俺と生活する様になってから全く笑わなくなった。

そのことをずっと思い悩んでいたある日、全てを忘れようとして一度だけいつも以上に呑んで帰った日があった。

その日は沙織が母に強く言われ、それでも母との会食を楽しいと言った日だった。

俺は甘えて欲しかった。
嫌なことは嫌だと伝えて欲しかった。

俺は何があっても彼女の味方だ。
母との会食が嫌であれば、直ぐにでも中止するのに……彼女は本音を話さない。

飲み過ぎたため、身体はポカポカ温かく頭も思考がぼんやりしていた。

時刻は深夜の2時。帰ったら寝ているだろう。
そう思っていた彼女が玄関まで出迎えてきて、おかえりと笑顔で言ってくれた。

『歩けますか?寝室に行きましょう』

酔っている俺を必死に支えながら俺の部屋まで連れていく。
お風呂上りのホワイトムスクの香りに、必死に俺を支える小さな腕。

ここまで彼女と近づくのは、今まで一度も無くてクラクラした。




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