神隠し
◆
「ねぇ、おねーさんはどこからきたの」
傷心旅行という名の旅に出かけた先の古めいた喫茶店で、声をかけてきたのはひとりの少年だった。――朱い月を思わせる、妖しい美しさを宿したその瞳に、一瞬声を失う。
すぐ我に返り慌てて答える。
「東の果ての国からだよ」
「へぇ、かなり辺境な地から来たんだね。西の都からって人は多いけど。あ、せっかくだからお茶おごってあげる。何がいい?」
「そんなの悪いよ」
「いいからいいから」
折れる気配がない少年に、お言葉に甘える事にした。黄昏紅茶が美味しいとすすめられて、それをふたつ注文する。
「おれはミコト。おねーさんは?」
「月湖」
「――月といえば。月の綺麗な夜は、占い師たちが店を出してるんだよ」
「どうして?」
「月の力が強い日は、占いがよく当たるから。興味があれば行ってみるといいよ」
それからも他愛のない話をした。色々なスポットを教えてもらっているうちに、注文の品が運ばれてきた。黄昏の空をそのまま映したかのような紅茶からは、やさしいオレンジの香りがする。
――懐かしいな。故郷の果実園を思い出すなあ。
傷心旅行という名の旅に出かけた先の古めいた喫茶店で、声をかけてきたのはひとりの少年だった。――朱い月を思わせる、妖しい美しさを宿したその瞳に、一瞬声を失う。
すぐ我に返り慌てて答える。
「東の果ての国からだよ」
「へぇ、かなり辺境な地から来たんだね。西の都からって人は多いけど。あ、せっかくだからお茶おごってあげる。何がいい?」
「そんなの悪いよ」
「いいからいいから」
折れる気配がない少年に、お言葉に甘える事にした。黄昏紅茶が美味しいとすすめられて、それをふたつ注文する。
「おれはミコト。おねーさんは?」
「月湖」
「――月といえば。月の綺麗な夜は、占い師たちが店を出してるんだよ」
「どうして?」
「月の力が強い日は、占いがよく当たるから。興味があれば行ってみるといいよ」
それからも他愛のない話をした。色々なスポットを教えてもらっているうちに、注文の品が運ばれてきた。黄昏の空をそのまま映したかのような紅茶からは、やさしいオレンジの香りがする。
――懐かしいな。故郷の果実園を思い出すなあ。
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