神隠し

「ねぇ、おねーさんはどこからきたの」


 傷心旅行という名の旅に出かけた先の古めいた喫茶店で、声をかけてきたのはひとりの少年だった。――朱い月を思わせる、妖しい美しさを宿したその瞳に、一瞬声を失う。

 すぐ我に返り慌てて答える。


「東の果ての国からだよ」

「へぇ、かなり辺境な地から来たんだね。西の都からって人は多いけど。あ、せっかくだからお茶おごってあげる。何がいい?」

「そんなの悪いよ」

「いいからいいから」


 折れる気配がない少年に、お言葉に甘える事にした。黄昏紅茶が美味しいとすすめられて、それをふたつ注文する。


「おれはミコト。おねーさんは?」

「月湖」

「――月といえば。月の綺麗な夜は、占い師たちが店を出してるんだよ」

「どうして?」

「月の力が強い日は、占いがよく当たるから。興味があれば行ってみるといいよ」


 それからも他愛のない話をした。色々なスポットを教えてもらっているうちに、注文の品が運ばれてきた。黄昏の空をそのまま映したかのような紅茶からは、やさしいオレンジの香りがする。


 ――懐かしいな。故郷の果実園を思い出すなあ。
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