クールな御曹司との契約結婚は、初夜から愛と熱情に満ち溢れていました

　声に集中したおかげで、私は一人の男性の声が聞き覚えのあるものだと気付いてしまった。

　──この声は、安藤さんだ。

　彼らがなにやらとてもよくない話をしているのは理解できたから、この場を離れて透哉さんのもとへ向かうべきだと頭の中で警鐘が鳴っている。

　だけど身体が動かない。

　人間は強いショックを受けると、頭が真っ白になって身体が従ってくれなくなるようだ。

　どうして安藤さんが？　話している相手は誰？

　この人たちは透哉さんになにをしようとしているの──。

「……あっ」

　硬直する私の意識を引き戻したのは、皮肉にもこちらに気付いた安藤さんの驚きの声だった。