クールな御曹司との契約結婚は、初夜から愛と熱情に満ち溢れていました
 どこかへ移動しようとしたのか、柱の陰から出てきた安藤さんは、ひどく危険な気配を漂わせながら胡散臭い笑みを浮かべている。

「どうしたんですか、氷室さん? もしかして僕みたいに迷子になったとか」

 彼の後ろからもう一人の男性が姿を見せる。

 顔に覚えはなかったけれど、太陽の光にきらめいた赤いピアスには見た事があった。

 夜(ニュクス)エリアのバーにいたバーテンダーだ。

「氷室さん?」

 安藤さんが猫なで声で私を呼び、一歩近付いてくる。

 なにか言わなければ怪しまれる。今ならまだ、誤魔化しがきくはずだ。彼もそう思っているから、迷子になったなどと嘘を言っている。

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