クールな御曹司との契約結婚は、初夜から愛と熱情に満ち溢れていました
 氷室社長はまだアイスコーヒーを残した状態で席を立った。

「会計は済ませておく」

「……ありがとうございます」

 変に食い下がるのも迷惑な気がして、これから夫となる人の言葉を受け入れる。

 それにしても、結婚すると決まった間柄だとは思えない冷めた空気だ。今後の事を話すとか、何かあるかと思ったのにそれもなく立ち去るなんて。

 話が済んだ以上、余計な時間を使う必要はないという事かもしれない。

 たしかに私たちは契約結婚をするのだし、一般的な夫婦のようにお互いへの理解を深めたり、楽しいひと時を過ごさなくてもいいのだろうけれど、少し寂しいと思わない気持ちがないでもなかった。

 会計を済ませる彼の背中を目で追いながら、この結婚にもっと甘い感情を抱けたほうがよかったのかどうか、ふんわり考えた。

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