花風㊥
「そろそろ休んだ方が良い」
「はい。でも、戸田さんも休んだ方が・・・」
眉尻を下げ苦笑いで返して来た。
「まだ仕事が残っている、少し片付けてから休む」
「分かりました・・・おやすみなさいませ・・・」
「おやすみ」
穏やかな声に触れても寝付けないまま。
音を立てぬ様に繰り返していた。
呼吸や心拍数を整えても脳裏が余計な事を廻り出す。
後日に手を掛ける予定の企画書や資料の束。
鞄に入れる私物と持ち出した着替えや小物類。
何かと準備を描いていた。
不意に深い溜息が聞こえてくる。
微かに燻る匂いが通り抜けた。
漸く息を忍ばせて暗い道を歩き出す。
辿り着いた底へ僅かに陽が差し込む。
「・・・おはようございます」
「おはよう、心地良い寝息をしていた・・・」
同時の寝惚けた姿に笑いが零れていた。