激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 地面はコンクリートで固められ高いビルが所狭しと立ち並ぶ東京とは、まったく違う街並みだった。

「ポトマック川を渡るとアメリカの首都、ワシントンDCですよ」

 そう言われ前を向く。
 広い道路の先に白い石造りの建物と塔が見えてきた。

「あれは……?」
「リンカーンミュージアムとワシントン記念塔です。あのあたりには百年前に日本から贈られたソメイヨシノが植えられてて、地元の人たちから愛される有名なお花見スポットになっているんですよ」
「日本が贈った桜がアメリカで愛されているなんて、素敵ですね」
「あ、もしよかったら散歩してみます? 桜は咲いてないですけど、紅葉がはじまりかけたこの季節もけっこう綺麗ですよ」

 ぜひ……、と言いかけて言葉を飲み込んだ。

 亮一さんがお仕事をしているのに、私だけが観光するのはなんだか申し訳ない気がしたから。
 それに、はじめてのアメリカを楽しむなら、できれば亮一さんと一緒がいい。

「ええと……。とてもありがたいんですが、長時間のフライトのせいかちょっと疲れがあるので」

 失礼にならないように、言葉を選んでお断りする。

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