激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 私はそのまま前を向き、玄関から出る。
 背後で扉が閉まる音がすると同時に、涙がこみあげてきた。

 頬を伝う涙を無視して、必死に足を前に進める。
 エレベーターに乗り、マンションの外に出る。
 ぽろぽろと涙をこぼしながらひとり夜の街を歩いた。

 ちょっと前まで仕事も恋愛も順調だと浮かれていたのに、こんなことになるなんて……。鈍感な自分が情けなくなる。

 彼に愛されていると信じていた自分がみじめで仕方ない。

 康介はちょっと気分屋なところもあったけど、優しい彼氏だった。
 この一年間一緒にいられて楽しかったし、本当に結婚したいと思っていた。

 でも、そう思っていたのは私だけだったんだ。

 信じていた人に裏切られ、仕事さえ失った。
 これからどうすればいいんだろう……。

 どん底に突き落とされたような気分だった。

 泣きながら歩く私を、道行く人が振り返った。
 涙を止めようとしたけれど、ひっくひっくと呼吸が乱れ余計に視線を集めてしまう。

 こんな顔じゃ電車に乗れない。
 タクシーで帰ろうかと思ったけれど、あげかけた手が止まった。

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