激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 このまま家に帰ったら、兄を心配させてしまう。
 泣きはらした顔を見て、『なにがあったんだ』と問い詰めてくるだろう。

 あの過保護の兄のことだ。
 事情を話したら、康介のもとへ殴りに行きかねない。


 それに……。


「結婚の話がなくなったって知ったら、がっかりするだろうな」

 つぶやくとまた涙がこみ上げてきた。

 高校生のときに私の両親は海外旅行先で交通事故に巻き込まれ亡くなった。
 それからは五歳年上の兄が親代わりになってくれた。

 兄のおかげで大学を卒業できたし、こうやって就職し立派な社会人になれた。
 けれど、兄から見れば妹の私はまだまだ頼りなく思えるらしく、未だに過保護なくらい私を気にかけている。

 私に彼氏ができたと知ったときは『どんな男か今すぐ合わせろ』と大騒ぎし、『付き合ったばかりなのに家族に挨拶なんてしないよ』と私が反論すると『そんな無責任な男に日菜子を任せられない』と大激怒された。

 兄に反対されながらも交際を続け、『来年くらいに彼との結婚を考えているんだ』と報告したときは素直によろこんでくれた。

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