激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 恐る恐る目を開ける。犬は地面に伏せおびえたように耳を寝かしこちらを見上げていた。

「日菜子! 大丈夫か?」

 騒ぎに気づいた亮一さんが私のもとに駆けつける。
 私を抱き寄せ腕の中にかばってくれた。

「わ、私は大丈夫です。それよりもそちらの女性は……」

 老婦人は無事だっただろうかと彼女を見ると、数人のスタッフに囲まれていた。

『私も大丈夫よ。このお嬢さんがかばってくれたから』

 心配する周囲にそう言い、私にたずねる。

『大丈夫? けがはない?』
『はい。大丈夫です。とびつかれそうになっただけなので』

 近くで小さな女の子が泣いていた。
 どうやらさっきの音は、彼女が持っていた風船が破裂した音だったようだ。

 おびえる犬の前にしゃがむ。

『びっくりしただけだよね。とっさのことだったのに噛んじゃだめだって我慢できてえらかったね』

 私が声をかけると、「くぅーん」と細い声で鳴いた。
 ごめんと謝るように、私の手をなめてくれる。

『この子のご主人、銃の暴発事故で亡くなったのよ』
『だから、今の破裂音で驚いたんですね』

 納得しながらご主人を失った犬を見つめる。

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