激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
「いえ、そんなことは。亮一さんはとても紳士的で優しいんです。私の嫌がることは絶対にしないし過保護なくらい大切にしてくれるし……」

 でも、怜奈さんに見せる顔を、私には見せてくれない。
『お前』なんて乱暴に呼んだりしない。

 彼はずっと演じていたんだ。
 優しくて理想的な夫の仮面をかぶり続けてきた。

 そのことが、どうしようもなく寂しかった。

「日菜子さん、こういうときは思い切り飲んで食べるしかないですよ!」

 私をはげますように浜辺さんが明るく言う。

「うちの公邸料理人の腕はすごいんですよ。今日用意されているワインも最高級ですから、ガブガブ飲んじゃいましょう!」

 優しい彼にくすくす笑いながらうなずく。

 彼はパーティーの参加者とにこやかに挨拶を交わしては、「あの人あんないかつい顔をしてるけど実は猫舌なんですよ」とか「あの人に野球の話題を振ると一時間は解放してくれないから気をつけてください」といった個人情報をこっそり耳打ちしてくれた。

 近寄りがたい要人たちの人間らしい一面を知ることができておもしろかった。

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