激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 誘われるように欄干に手を置き下を見る。
 私の足もとを川の水が勢いよく流れていく。
 その激しい流れを見ていると、自分がなんの価値もない存在に思えた。

 ぽつりと水滴が腕に落ちた。

 なんだろうと視線を上げると同時に、空から大粒の雨が落ちてきた。
 橋の欄干もアスファルトも、あたりのものは一気に濡れ、雨音で周囲の音がかき消される。

 あっという間に私はずぶぬれになってしまった。
 体温が下がり、体が震える。

 彼氏に裏切られ、雨にも降られるなんて。
 どこまでついてないんだろう。

 悲しみと喪失感がこみ上げてきて、そこから動けなくなった。
 私はひとりで立ち尽くし、冷たい雨に打たれながら流れる川を見下ろす。

 前もこんな気持ちになったことがあった。
 どうにかしたいのに、どうすればいいのかわからず、ただ泣いていた日々。

 両親が亡くなった直後のことだ。
 あのとき悲しみにくれる私のそばで、ずっと見守ってくれた人がいた。

「亮一さん……」

 脳裏に浮かんだその人の名前をつぶやいてみたけれど、彼はもう日本にはいない。
 名前を呼んだところで会えるはずがない。

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