激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 亮一さんははっきりと言い切った。
 その言葉を聞いて、よろこびよりも寂しさが込み上げる。

 彼は契約結婚を維持するためだけに嘘をついているんだと知っているから。

「まぁ、立場上そう言うしかないものね」

 怜奈さんも事情を理解しているんだろう。
 余裕たっぷりに微笑むと、「じゃあ今日は失礼するわね」と私に一瞥をくれてから部屋を出ていく。

 残された亮一さんの様子が、いつもとは少し違った。
 呼吸が苦しいのかネクタイを乱暴に緩め、はぁっと乱れた息を吐く。

 亮一さんはこちらにやってくると、浜辺さんに耳打ちした。

「酒になにか混ぜられた」

 隣で聞いていた私は、驚いて顔を上げる。

「まじすか。警察呼びます?」
「ここは大使公邸だ。さすがに違法なものではないだろう」
「じゃあ、催淫剤とか?」
「おそらく。参加者に知られれば変な憶測を呼ぶ。話を大きくしたくない」
「わかりました。大使には僕から話しておくので、瀬名さんは自宅に帰ってください」

 すぐに状況を理解した浜辺さんに、亮一さんは「悪い」と謝る。

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