激情を秘めたエリート外交官は、最愛妻を啼かせたい~契約結婚なのに溺愛で満たされました~
 夜の川は暗く底が見えなくて、無数の雨粒が打ち付けられた水面が激しく波打っていた。
 ずっと見入っていると、平衡感覚が失われ吸い込まれていくような気がした。

 自然とつま先立ちになり、身を乗り出す。

 いっそこのまま飛び込んでしまえば、なにも考えずにすむのかな……。

 なんてバカげたことを思ったとき、私の名前を呼ぶ声がした。

「日菜子ちゃん……!」

 よく通る低い声だった。

 驚いて顔を上げると、たった今思い描いていた人がそこにいた。

 精悍な顔立ちに、艶のある黒髪。手足が長く胸板が厚い、引き締まった体つき。
 そんな王子様みたいな彼が、私のもとへと駆け寄ってくる。

 どうして亮一さんがここに……。

 信じられなくて目を見開くと同時に、強い風が吹いた。
 セミロングの髪が風に煽られ視界を遮る。

 慌てて髪をかきわけようと欄干から手を離したとき、足が滑りバランスを崩した。
 
 背筋が冷たくなり、「きゃ……」と悲鳴を上げる。

 恐怖を感じ固く目をつぶった。
 衝撃を覚悟したけれど、私を包んだのは温かいぬくもりだった。

 おそるおそる目を開ける。
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